現金が戻ってくる可能性2(「現金が戻ってくる」ことを強調するチラシについて)
前回(8月18日)のブログの続きである。
2 チラシの問題性①:優良誤認表示か?
まず、前提として、「現金(過払金)が戻ってくる(可能性がある)」のは、
①遅くとも2010年6月までに借入(クレジットカード利用)していた人であり、
かつ、
②現時点から遡って10年以内に取引が継続していた人に限定される。
そして上記に該当する人は、2024年7月(当職がチラシを認識した時点である)現在においては,極めて限定されると言わざるを得ない(このことは前のブログで指摘した。)。
ところがこのチラシでは,そのような限定はなくおよそクレジットカード利用者であれば全てが「現金が戻ってくる(可能性がある)」かのような表示がなされている。
この点については、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」等という)の「優良誤認表示」(5条1項1号)あるいは「有利誤認表示」(同2号)に該当するとの疑いを否定できないものとと思料する。
cf.不当景品類及び不当表示防止法
(不当な表示の禁止)
第5条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する
表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著
しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務
を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を
誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは
類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく
有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による
自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
すなわち、景品表示法は、「一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示・・・す表示であつて、不当に顧客を誘引」する表示を規制するものである。
本件では、およそクレジットカードを利用したものであれば多くの者にとって「現金が返ってくる」可のような表示であると認識できよう。ところが、実際には極めて限定された条件でしか「現金が戻ってくる」ことはない。
このような可能性の低い役務(金融業者に対する過払金の返還手続)を前面に押し出した表示は「実際のものよりも著しく優良であると示すもの」といえるのではないだろうか。
この点、「現金が戻ってくる(可能性がある)」者は限定されてはいるものの、前述した条件を満たせば過払金返還請求権を有していることは事実であることからすれば、チラシ主の役務が「実際の者より著しく優良」とはいえない、との考え方もあり得よう。あるいはチラシ主は「現金が戻ってくる」可能性がない人については、当該役務は発生しないとしてもその調査を無料であるから「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれ」という不利益を課するものではないと言うかも知れない。
しかし、チラシ主のような過払金返還の手続をする役務の提供は、弁護士あるいは認定司法書士であれば誰でもなし得る業務である。
そして、過払金返還請求が既に現時点においては、かなり限定された条件に該当しなければできないことは、弁護士らにとっては周知の事実である。その条件を明示することなく、およそクレジットカード等の利用者が全て現金の返還の可能性があるかのような表示をすることは、あたかもチラシ主だけがそのようなノウハウを有しているかのような誤認を消費者に対してまねきかねないと考えられる。(※)
(※)「事業者間では常識とされているようなことであっても,それが一般消費者がおよそ知らないような事項であれば、当該事項について誤認が生じることがあり得る」(参考「景品表示法の実務」渡辺大祐著・第一法規40ページ)以上、かかる誤認が法的に問題とされうると考える。
そうだとすれば、かかる表示は「実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」であるといえるのではないだろうか。
以上より、本来返還される可能性がある「カードキャッシング利用者」は法律上明らかであるにもかかわらず,これを限定せずに「カードキャッシングのご利用経験があるあなたに」向けたチラシ広告は、一般消費者に誤認をまねく表示ではないだろうか。
(続く)