貸衣装契約解約条項使用差止請求訴訟について(その2)
KC’Sの主任弁護士として、
「貸衣装契約解約条項使用差止請求訴訟」
を提起したことをここに書いたが、
その内容について、続きを書かなければならないのに2週間もサボってしまっていた。
そこで続きを書こうと思う。
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2 では、適格消費者団体であるKC’Sは今回、いかなる裁判を提起したのか?
(1)本件は、差止請求訴訟であり、損害賠償請求や代金の返還を
求めるものではない。
したがって、KC’Sはこの裁判に勝訴しても、一銭も入ってこないので
ある。
(このことは、こういった団体がお金儲けのためにやっているのではないか?
と考える人が時々いるので、念のため申し上げておく。)
(2)では差止請求であるが、これは一般的には
『権利を侵害される人が侵害行為その他を止めさせるために提起する訴訟』
と考えていただけると良い。
通常の場合、その行為がなされてしまっては、これによって権利を侵害された人
の損害が回復困難になってしまう場合に認められるのであって、例えば、名誉毀損
を理由に出版物の差止めを請求する場合などが挙げられる。
(3)一方KC’Sの差止の対象は、ある会社が消費者との間で契約に際して
用いている 「契約条項」を使わないようにさせるものである。
この点、KC’S自身が権利を侵害されたわけでも不利益を被ったわけでもない。
しかし、契約上、消費者に一方的に不利益を課すような、不当な条項が使用
されることで、国民生活全般に不利益が生じる可能性が高いわけであるところ、
個々の消費者がこの点を訴訟において訴えるのは実際上困難であることから、
適格消費者団体が契約条項全般について、消費者契約法その他の法律に反している
ものについて、その使用を差し止めるための訴訟を提起する権限を与えられたのである。
3 今回の差止請求の対象は、
貸衣装契約を、消費者の都合で解約する場合のキャンセル料の割合について
それが不当に高額に過ぎるという点を問題にしたものである。
本件の被告である貸衣装の会社は、以下のようにまとめられる貸衣装契約の契約条項を
用いていた。
ところでこの条項で問題となったのは
契約日~挙式日の30日前までのキャンセルについて、
代金の30%のキャンセル料が課せられるとされている点である。
これだけとらえると一件何が問題が分からないかも知れないが、
「結婚式における貸衣装契約が挙式から1年以上も前になされる」
ことも少なくないという実態を知っていると、理解しやすいと思う。
すなわち、
例えば、挙式日から35日前にキャンセルしたとすれば、30%のキャンセル料を取られることに
(法律家はともかく)一般の消費者からは「しょうがない」と思われるかも知れない。
しかし、この条項は、
挙式日が1年6カ月後に設定されているときの契約で、1年前にキャンセルした場合にも
適用されるのである。
このような場合、一体業者にどういった損害が生じているというのだろうか。
少なくとも、このような一律の契約条項が消費者にとって不当に不利益を課するもので
あることになりはしないか?
と言う疑問がわくことになる。
この点、消費者契約法は、
「第9条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項で
あって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の
区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生
ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
(以下略)」
と規定しており、
すなわち、解約の際のキャンセル料は、
「平均的損害を超える部分は無効」
であるとしている。
そうすると、上記の契約条項は、
「いったん契約した以上は,解約日が挙式日からどんなに以前であっても最低30%のキャンセル料を
支払え」
というものであり、「契約条項」としては、やはり平均的損害を超えるものを消費者が負担することになると
言わざるを得ないわけである。
そこで、今回この点を問題視して、KC’Sは当該業者に問合せをなし、また改善についての申し入れを
再三にわたってしたにもかかわらず、これを無視されるような事態に至ったため、本裁判を提起したものである。
その経緯については、プレス用の資料にも記載されているが、ここにもアップしておく。
経緯は以上の通りである。
今後裁判期日も入ったので、その進行に対しても注目が集まると思われる。