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小説「写真は誰のもの?」(その2)

(その1より)

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(・・・明日か。午後3時からならなんとか空いているな。)

 大崎は日誌を見ながら、調整可能な日時を切り出した。

 「鈴木さん、私も写真の載ったチラシを見たいなあ。

 ・・・じゃあ明日の午後3時はいかがでしょうか。
 その日にチラシと写真データも持ってきて頂けるとありがたいのですが。
 また、そのデザイナー事務所の関係者、えっと河合さん?は呼ぶことができませんか。」

 

「ええ、河合さんは、自分が無理なら担当者だった山川のどちらかがいつでも事情を

説明にうかがうと言ってます。」

 

「じゃあ、そのときに河合さんか山川さんも都合がつくかも調整して頂いて、

ご同行頂けるなら、ありがたいです。」

 

「分かりました。では先生、明日の午後3時にうかがいます。」

 

 電話を切ってから大崎は,どんなチラシだったのだろうか、とか、肉の写真はどこで入手したもの

だったのだろうか、などとデスクの前の椅子に座ったまま、ただ考えをめぐらしていた。

 

 翌日、応接室に通された鈴木は、大崎が入室すると、まるで久しぶりに飼い主にあった犬のように、

大崎へチラシを見せながら、

 

「この真ん中の肉の写真が違法だと言うんです。」
と切り出した。

 

 チラシには、おいしそうなステーキの写真が中央にあり、上側部分に

『○月○日開店!パクパクペッパー』

とのポップ文字が入ったものであった。

 

 鈴木は、
「このチラシと同じ写真を前面に出したホームページを立ち上げてまして、

これも公開しているんです。

あ、店の名前は会社名をアレンジして『パクパクペッパー』としました。

・・・そしてこれが弁護士からの通知書です。」

 

 大崎は、矢継ぎ早に資料を机の上においてしゃべる鈴木に面食らいながらも,

「まあまあ、鈴木さん落ち着いて。そちらの方も紹介して下さいよ。」

と鈴木の横に立っている男性の紹介を求めた。

 

 鈴木は、
「この写真ですが、昨日電話で言ったように,デザイン事務所に『美味しそうな肉の写真を

どーんと載せてくれ』と頼んだのですが、担当者の山川さんがこの写真データを収集して

チラシにレイアウトしたと聞いたので、山川さんに来てもらったわけです。」
と言い、さらに続けた。

 

「元々河合さんのデザイン事務所は、サラリーマン時代の同僚から紹介してもらったことが

きっかけだったんです。」

 

「山川」と紹介されたその男性が、大崎に名刺を渡しながら
「どうも、今回は思いがけない形でニクニクペッパーさんにご迷惑をお掛けしたみたいで。」
とお辞儀をした。

 

 名刺交換を済ませ大崎は、鈴木と山川に椅子へ座るよう勧めたあと、弁護士からの通知書に

目を通しはじめた。

「なになに・・・。要するに『貴社の配布したチラシに掲載されている写真ですが、この写真は

当社の従業員である岩田某が撮影したものであり、これを貴社のチラシに許可なく掲載したものです。

よって、かかる写真が含まれているチラシの廃棄、ホームページでの写真の掲載中止、及びこれを

配布したことによる損害賠償を求めます。』ということですか・・・。」

山川は、内容証明郵便とは別に送付されてきたという、写真が掲載されていたパンフレットを

さらに取り出した。

 

パンフレットには「ギュウジュウハウスのご案内」とタイトルが入っており、ページをめくると、

表紙裏には大きく肉の焼かれている写真が飛び込んできた。

「このパンフレットの写真が、うちの写真とよく似ているというのです。」

 

 大崎は山川に
「このパンフの写真と、どの写真が同じだといわれているのですか。山川さんこの写真はどこで

入手したものなのですか」
と質問した。

 

 山川はまずチラシの背景になっている写真を示し、「これです」と答えた。
「この写真は、私が知り合いの焼き肉チェーン店で撮影したものがもとになってます。」 

 

「その、知り合いの焼き肉チェーンというのは・・・」
 大崎がさらに尋ねると、山川は、すぐさま答えた。

「実は、この『ギュウジュウハウス』なんです。

うちのボスから『許可は取っておいたから撮影に行ってこい』

といわれて、焼いているステーキの写真を撮らせてもらったのです。」

 

「そうすると、ギュウジュウハウスの肉の写真だけれども、内容証明郵便に書いてあるように

「アールデザイン株式会社」が撮影した訳ではないということですね。」

 

「はい、ただ撮影に行った日に、同じ店に別のデザイン会社の担当者も来ておりました。

同じステーキの写真をそこで撮影していました。

それがこのデザイン会社だったのかもしれません。」

 

 大崎は、
「そうすると、同じステーキを、同じ日にそのデザイン会社の担当者が

撮影していたということなんですかね。」

とさらに突っ込んだ。

 

 山川は、
「ちょっと待ってください。手帳を・・・。」
といいながら背広の内ポケットから手帳を取り出した。

 

「あっそうですね。この日にお店へ行ってます。」

 

 ・・・大崎はちょっと黙って天井を見上げた。そして考えを整理するかのように、

山川に再度質問した。

 

「山川さん、ところであなたが撮った写真の元データはお持ちな訳ですね。

ほかに何枚かとられたのですね。」

 

「はい、当然持っています。ほかのデータと一緒です。中にはステーキだけでなく、

焼いているシェフの姿も撮影したものもありますが、そちらはホームページに使っておりません。」

 

「ところで、ステーキの写真撮影の許可は、もらってましたよね。」

 

「ええ、現場で特に許可を得るというようなことはありませんでしたが、ボスからは許可をもらったと

言われていました。

また、私が撮影しているときに、焼いている店のシェフから撮影していることは

知っておられたと思います。

そのときは何も言われませんでしたよ。」

 

「河合さんはどういう許可をもらったとおっしゃってましたか。」

 

「そこなんですがが、ボスに聞くと『マーケティングの資料にしたい』とギュウジュウハウスの

オーナーにお願いしたらしいのですが、キチンとした形で申し出たわけではなかったようです。

・・・ボスは,ギュウジュウハウスのオーナーと飲み友達だということで、どうも飲み会の席で

  今度うちの写真が行くからよろしく、といったような感じです。」

山川の口調には、ややボスの河合を批判するようなニュアンスであった。

 

大崎は
「山川さんが撮影された写真は持ってこられてますか。」
となおも尋ねた。

 

「ホームページに用いた写真は持ってきました。・・・これです。

私のパソコンの専用フォルダに

保管してありますので、それをプリントアウトしました。」

といって山川は手持ちのノートパソコンを開き、「パクパクペッパー」の

サイトを立ち上げた。

 

そして、肉が焼かれている写真が、手元にプリントアウトした写真と

見比べられるように、

テーブルを挟んで座っている大崎にも両者が見えるようにこれを示した。

 

 

 確かに、ホームページの写真は肉が焼かれているのがおいしそうに写っているが、

紙に印刷してきたものはパソコンのデスクトップよりはややくすんで見えた。

                                                   (続く)

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