バンタムクラスステージ「ハーメルンの記憶」
バンタムクラスステージ「ハーメルンの記憶」観てきました
この時間ならネタバレを気にしないでいいだろう(笑)。
僭越ながら、ぜひとも感想を記させていただきたく。
バンタムクラスステージ:第Ⅹ回公演「ハーメルンの記憶」
主演の福地教光さんのブログ
(あらすじ:私の拙い理解による)
近隣国との紛争をきっかけに、難民の子供を受け入れる「移民局」が対馬に設置された近未来の日本。
折しも「エスターハス症候群」なる原因不明の子供の先天異常(呼びかけても何の反応もしない、しゃべらないと言った症状)が
見られるようになっていた。
我が子が同症候群に罹患したことがわかり、呼びかけに反応しない我が子をどんなことをしてでも治療のための方策を
見つけようとする兵庫県会議員の妻とそれに引きずられる夫の政治家夫妻。
夫妻は同じ症例の子供を持つ父親に、自分が理事をしている「戦災孤児救済センター」における、ある計画についての協力を
求めるように持ちかけた・・・。
10年後、カフェで女性の殺害事件が起こる。その捜査をきっかけにある記録が抹消されていることが判明する。
その記録とは、対馬の移民局から「戦災孤児救済センター」に引き取られてきた多数の子供たちが失踪していたというものであった・・・。
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・・・細川博司氏が主催するバンタムクラスステージの第10作である。
同劇団はこの作品を最後に活動拠点を大阪から東京に移すとのことであり、本作品はいわば総決算といえるのだが、
まさにこれにふさわしい気迫のこもった作品である。
同劇団の作品は、映画を観ているような表現に特色があるのだが、本作品は従来の作品とは別の視点から映画に対する挑戦を
試みている。
すなわち、本作品には、録画された殺害現場を何度も再生して主人公が分析するシーンや、他人には見えないが主人公の
サポートをする疑似人格を登場させ主人公と会話させるシーンが盛り込まれている。
通常これらのシーンはきわめてSF的であり、映画でなら特撮技術を駆使して表現されていたであろうし、また多くの人はこれらの
シーンは映画やアニメでしか表現できないと考えていたであろう。
ところが、本作品は、これらのシーンを、特別な小道具も使わず演技のみにより見事に表現しきったのである。
過去の作品が、20世紀初頭から1960年代を描いていたのに対し、今回は近未来を舞台としてSF的な世界を構築しようとしているのは、
同劇団に冠せられる「映画を観ているような」といった「批評」に対する一つの回答なのかもしれない。
さらに、本作品は、劇中で表現されない設定(背景)をあえて、パンフレットなどで補足的に説明している。舞台が架空の歴史を経た
近未来であることから、観客が作品を理解するための手法の一つではある。
これはともすれば観客を作品世界から置いてきぼりにしてしまい、成功するかどうかはともかく少数のマニア向けの作品として
位置づけられてしまう危険を伴う。
しかし、細川氏はこれを絶妙のバランスで乗り切ったように思える。むしろ、奥行きのある世界観の構築により観客を引きつけることに
成功したのではないか。
これはあたかもガンダムシリーズ(たとえばVガンダムなど)における世界観の構築に共通するものがある。
そして、そのねらいは本作品においては、ほぼ達成されたと思われる。
いずれにせよ、本作品は演劇における表現としてはきわめて意欲作であり、斬新であると思われる。このような作品世界を構築できる
才能が、大阪を去ってしまうというのは誠に残念である。
ただ、同劇団がさらなる作品世界を東京という場において発展させるのであれば、我々は、大阪からこのような劇団を送りだせることを
誇りに思わなければならないのではないだろうか。
(追伸)
観劇後、細川さんから「『逆襲のシャア』の台詞をパクったシーンがあるけど、どこか分かりました?」と謎かけされた(笑)。ううむ。