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 カテゴリー : 一般, 法律

現金が戻ってくる可能性?(その3)

3 チラシの問題性②:おとり広告の可能性

(1)過払金返還請求権を有する者の掘り起こしを目的とする?

 

  この点、おそらくは、この司法書士法人に依頼する人のほとんどが多重債務に陥っており、そのような人がこのチラシを見て「ひょっとして私の場合は?」と問合せをしてくるのだろう。

 

  しかし実際には過払金は存在しないか、あったとしても他の負債をあわせると「焼け石に水」といった状態であることがほとんどではないか。

 

  つまり、「現金が戻ってこない」多数の人たちが「現金が戻ってくる」というワードでこの広告により問合せをしてくるのだろうと考えられる。

 

   この視点から当該広告に更なる問題はないか。

 

(2)私は、このような手法は「おとり広告」に該当する恐れがある。

 

   すなわち、おとり広告とは、商品や役務を購入できるかのように表示しているが、実際には販売できる可能性や販売する意思がないことにより、消費者が表示された商品等を購入できないにもかかわらず、一般消費者がこれを購入できると誤認する恐れのある表示(広告)をいう。

 

   このようなおとり広告は、景品表示法においても不当表示としての規制を受ける。

 

   なぜかというと、このような表示は、表示された商品や役務に関心を持つ消費者を誘引した上で実際に販売する他の商品等を売りつける手段として用いられるからであり、かかる行為が一般消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するからである(西川康一編著・「景品表示法」第6版(商事法務)171ページ)。

 

   具体的には、どのような表示が「おとり広告」となり得るかが公正取引委員会の告示により定められており、具体的な運用基準も決められている(変更:平成28年消費者庁長官決定「『おとり広告に関する表示』等の運用基準」)。

 

cf.おとり広告に関する表示

 一般消費者に商品を販売し、又は役務を提供することを業とする者が、自己の供給する商
品又は役務の取引(不動産に関する取引を除く。)に顧客を誘引する手段として行う次の各
号の一に掲げる表示

 一 取引の申出に係る商品又は役務について、取引を行うための準備がなされていない
  場合その他実際には取引に応じることができない場合のその商品又は役務についての
  表示
 二 取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、
  その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示
 三 取引の申出に係る商品又は役務の供給期間、供給の相手方又は顧客一人当たり

  の供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない

  場合のその商品又は役務についての表示
 四 取引の申出に係る商品又は役務について、合理的理由がないのに取引の成立を妨げ
  る行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその商品又は役務に
  ついての表示

 

(3)さて、本チラシ広告の内容は、過払金返還請求権の調査とその請求代行をサービス内容とするものである。

 

   しかしながら、実際に過払金返還請求代行は,上記のようにほとんど可能性がなくなっていると考えられる。にもかかわらずかかる広告を続ける理由は、債務整理が必要な人たちを掘り起こすためではないかと私は考えている。

 

   そして、かかる広告は、「2012年以前からの借入をしていた人」という、極めて限定された人しか役務(過払金返還請求の代行)提供できないことは明らかである以上「取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示」に該当すると考えられる。

 

   世の中に多重債務者があふれており、その整理が必要な人はたくさんいる。そう言った人の大部分は本来返金の可能性などないのであって、そういう人も含めて「自分もそうかもしれないという」誤認を与える当該広告はやはり、おとり広告として不当な表示と言えるのではないだろうか。

 

 

   また、法律上の問題を置いても,明らかに「現金が戻ってくる」可能性のない人(それは最近借入をした人であれば明らかであろう)をも誤った希望を与えるのは、道義上も不当であろう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

以上、3回にわたって、かかる広告チラシの存在とその問題性について考察してみた。

 

もちろん結果として,現金が戻ってこないし、債務も減らないことが分かった人が,債務整理を弁護士や司法書士に依頼することが問題というわけではない。

 

しかし、本来、そのような可能性は明らかに見当たらない人まで対象にした広告をするような業者は、景表法といった法律に反している可能性もある思想でないとしても,フェアな広告をしているとはいえないだろう。

 

そのような抗告をする業者が果たして誠実に債務整理を進めていけるかは別問題とはいえ、類似の業務を行う者として、不安を感じるのは余計なお世話だろうか。

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現金が戻ってくる可能性2(「現金が戻ってくる」ことを強調するチラシについて)

前回(8月18日)のブログの続きである。

 

 

2 チラシの問題性①:優良誤認表示か?

   まず、前提として、「現金(過払金)が戻ってくる(可能性がある)」のは、
    ①遅くとも2010年6月までに借入(クレジットカード利用)していた人であり、
  かつ、
    ②現時点から遡って10年以内に取引が継続していた人に限定される。

 

   そして上記に該当する人は、2024年7月(当職がチラシを認識した時点である)現在においては,極めて限定されると言わざるを得ない(このことは前のブログで指摘した。)。

 

   ところがこのチラシでは,そのような限定はなくおよそクレジットカード利用者であれば全てが「現金が戻ってくる(可能性がある)」かのような表示がなされている。

 

   この点については、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」等という)の「優良誤認表示」(5条1項1号)あるいは「有利誤認表示」(同2号)に該当するとの疑いを否定できないものとと思料する。

 

  cf.不当景品類及び不当表示防止法
(不当な表示の禁止)
第5条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する

    表示をしてはならない。
  一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著

   しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務

   を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を

   誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
  二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは

   類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく

   有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による

   自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

 

   すなわち、景品表示法は、「一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示・・・す表示であつて、不当に顧客を誘引」する表示を規制するものである。

 

   本件では、およそクレジットカードを利用したものであれば多くの者にとって「現金が返ってくる」可のような表示であると認識できよう。ところが、実際には極めて限定された条件でしか「現金が戻ってくる」ことはない。

 

 このような可能性の低い役務(金融業者に対する過払金の返還手続)を前面に押し出した表示は「実際のものよりも著しく優良であると示すもの」といえるのではないだろうか。

 

  この点、「現金が戻ってくる(可能性がある)」者は限定されてはいるものの、前述した条件を満たせば過払金返還請求権を有していることは事実であることからすれば、チラシ主の役務が「実際の者より著しく優良」とはいえない、との考え方もあり得よう。あるいはチラシ主は「現金が戻ってくる」可能性がない人については、当該役務は発生しないとしてもその調査を無料であるから「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれ」という不利益を課するものではないと言うかも知れない。

 

  しかし、チラシ主のような過払金返還の手続をする役務の提供は、弁護士あるいは認定司法書士であれば誰でもなし得る業務である。

 

  そして、過払金返還請求が既に現時点においては、かなり限定された条件に該当しなければできないことは、弁護士らにとっては周知の事実である。その条件を明示することなく、およそクレジットカード等の利用者が全て現金の返還の可能性があるかのような表示をすることは、あたかもチラシ主だけがそのようなノウハウを有しているかのような誤認を消費者に対してまねきかねないと考えられる。(※)

 

 (※)「事業者間では常識とされているようなことであっても,それが一般消費者がおよそ知らないような事項であれば、当該事項について誤認が生じることがあり得る」(参考「景品表示法の実務」渡辺大祐著・第一法規40ページ)以上、かかる誤認が法的に問題とされうると考える。

 

  そうだとすれば、かかる表示は「実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」であるといえるのではないだろうか。

 

  以上より、本来返還される可能性がある「カードキャッシング利用者」は法律上明らかであるにもかかわらず,これを限定せずに「カードキャッシングのご利用経験があるあなたに」向けたチラシ広告は、一般消費者に誤認をまねく表示ではないだろうか。

                                                             (続く)

 

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「現金が戻ってくる」可能性?

  最近、「現金が戻ってくる」と大見出しをうったチラシが入っていた。その広告には、対象カードとその過払金額がいくつもあげられている。

 

 このチラシは某司法書士法人が配布していたのであるが、同様な内容の広告をネット上でも見かけた方は多いのではないだろうか。同司法書士法人はテレビコマーシャルでも同様の広告をしているようである。

 

 果たして、このようなことが現実に可能か。仮に可能だとしてもどれくらいの可能性なのか。
 このチラシに何か問題はあるのか、と言った点を、これから本ブログで分析していきたい。

 

第1 過払金が発生している可能性は少ないこと

1 過払金は発生しているか。

 

   このチラシでは、大きく「現金が戻ってくる」との記載の下には小さい文字で「可能性があります」との記載もあるが、実際のところその可能性はどれくらいあるのだろうか。

 

  まずは、現金が戻ってくる根拠を考えたい。

 

2 「現金が戻ってくる」根拠

 

  先ずはこのチラシに言う「現金が戻ってくる」とする根拠であるが、借り入れた金額よりも返済した金額が上回る場合以外にはありえない。従前金融業者は利息制限法の上限を上回る金利で貸付をしていたことから、これが超過分を元本充当することにより、過払い金が発生することとなっていた。

 

  しかしながら平成18年に貸金業法の改正がなされ(平成22年6月に完全施行)、年利15~20%を超える支払についての「みなし弁済」を廃止し、出資法の上限金利を20%に引き下げたことにより、利息制限法の上限を超える金利での貸付は不可能となった。

 

  従って、遅くとも平成22年6月以降、金融業者からの貸付は、利息制限法の上限以内の金利によるものとなったため、超過利息の元本充当の余地がなくなり、過払金も生じないこととなった。

 

  そうすると、「現金が戻ってくる」可能性のある人は、遅くとも平成22年6月までに初回の借入をしていた人と言うことになるが、多くのクレジットカード会社は法律が施行されるまでに金利を見直していたと考えられるから、実際には平成18年以降に借り入れた方には過払金発生はないか、あっても極めて希少な額しか発生しないと思われる。

 

3 過払い請求権の時効

 

  また、注意すべき点がもう一つある。それは「過払金返還請求権の時効」の問題である。

 

  すなわち、ほぼ確実に過払金返還請求権が発生していると考えられるのは、法施行以前に借入をしており、かつそれ以降に約定どおりに完済した人である(債務を完済していない人でも過払金が発生していることはあるが調査・再計算しないと確実とは言いがたい。)。

 

  ところが、2024年現在では完済から10年を経過していることも多く、せっかく生じていた過払金返還請求権が時効により消滅している可能性が高い。

 

   そうすると結局、過払金が発生していたとしても、その返還請求権は時効により消滅しており、現金が戻ってくることはあり得ない。

 

4 あらためて過払金の発生の可能性について

 

  それでも法改正あるいは法施行から10年以内であれば、まだそれ以前からの借入と返済が多額に及んだ人がまだまだ存在しており、過払金返還請求が可能な事例は少なくなかったかも知れない。

 

  しかし、法律成立から18年、完全施行からでも14年も経ている2024年(現在)においては、もはや、「現金が戻ってくる」可能性は極めて低いと言わざるを得ないのではないだろうか。

 

  そうすると、このチラシ広告の狙いはどこにあるのだろうか。
  いったんここで一息ついて、別項で論じていこうと思う。

 

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令和6年お盆の営業状況について

当事務所のお盆(8月8日~8月16日)の営業時間は

以下のとおりとさせていただきます。

 

1 平日は通常どおりの営業(9時から21時)いたします。

 

2 8月10日(土),11日(日)、12日(月祝)は午前11時から

  午後5時までの営業とさせていただきます。

 

3 電話でのお問合せは上記時間帯以外も随時受け付けております。

 

以上よろしくお願い申し上げます。

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2024年の倒産件数、11年ぶり大台突破確実か

2024年の倒産件数、11年ぶり大台突破確実か/コロナ禍の手厚い保護「ゼロゼロ融資」の返済ピーク、中小企業に大打撃
https://news.yahoo.co.jp/articles/5c1cb8b3b23a82cab1dc062c6fb0ed04721a321f#:~:text=2024%E5%B9%B41%E6%9C%8817,%E4%BB%B6%E5%8F%B0%E3%81%AB%E9%81%94%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82
(ヤフーニュースより)

 

まず、令和以降の倒産件数・負債総額は
以下のとおりだそうです。

 

 西暦(和暦)     件数    負債総額(円)
2023(令和5年)  8,690    2,402,645
2022(令和4年)  6,428    2,331,443
2021(令和3年)  6,030    1,150,703
2020(令和2年)  7,773    1,220,046
2019(令和元年) 8,383    1,423,238
(引用 https://www.tsr-net.co.jp/news/status/transition/)

 

2024年は、中小企業の倒産が11年ぶりに1万件を超える高水準になると予想されています。
コロナ禍が明けたにもかかわらず中小企業の倒産が増える要因ですが、コロナ禍の期間に受けていた、ゼロゼロ融資(実質無担保・無利子)などの返済期限がここに来て中小企業の重荷となって、資金繰りが困難になることが主たる原因と考えられるそうです。

また、人手不足なども売上げの不振に拍車をかけ、その結果返済が困難となるものと思われます。

 

業種別では、飲食業を含むサービス業が2940件(前年比41.6%増)で、増加率第1位だそうです。飲食業は零細企業が多く、コロナ禍で客足が途絶えてから、それが順調に回復しなかったことにも原因があると思われます。

 

飲食店の売上げが不振となって廃業するに当たり、当事務所に自己破産の申立を依頼されるというケースもあリましたが、今後はこういったケースが増えてくるのではないかと予想されます。
廃業に当たって債務超過に陥るケースであれば、やはり法的な整理をする方が良いでしょう。そのためには専門家による適切なアドバイスが不可欠です。

 

当事務所においても、飲食店の廃業に当たって、適切な債務整理の方法をアドバイスできると思いますので、お気軽にご相談くださいませ。

 

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破産に至る浪費の類型について

自己破産の原因として一定の浪費がある場合は少なくない。
ではどのような浪費が多いのか。
当職が扱った事案の中から抽出してみた。

 

1 FX取引、バイナリーオプションなど
  最近浪費の類型として目立つのは、FX取引やバイナリーオプションと言われる取引である。

 

  これらの取引を詳細に紹介することはここではしないが、要するに、外国通貨の将来の為替変動(例えば,日本円-米国ドルの為替レート)を予想して、これを売買することで、予想通りの変動があれば為替差益を取得し、予想が外れれば為替差損を負担する、というものである。

 

  相場の変動は日々変化するものであり、その予想をすることは一般人にとっては容易ではない(どれだけ研究しようと、それは予想の精度を高める以上のものでしかなく、絶対に儲かる予想など不可能である。)。結局これらの取引はハイリスク・ハイリターンであり、また偶然の要素にかかってくるという点でギャンブル的要素は否定できない。従って、資金に余裕があるならともかく、生活資金等を投入してまでこれを行うことは明らかに「浪費」である。

 

  それにも関わらず、FX取引が確実に儲かる「投資」である(多くの業者の広告は「投資であるかのごとき」イメージを作出しており、この点にも問題があると考えている)との誤解のもとにこれらの取引に手を出して財産を減らし負債を抱えた人が確実に多数存在している。

 

2 ネット競馬など
  次に、多く見受けられるのは、ネット競馬や競艇などのインターネット経由で参加できるギャンブルである。違法カジノに手を出していた事例もあるようだ。

 

  これらのギャンブルの特徴は、極めて手軽に参加できるところにある。従来は競馬場や場外馬券場に行かなければ購入できなかった馬券がネット経由で購入できるようになり、これにはまる頻度は比較にならないぐらい高まっている。

 

  また一回あたりの購入額が少額でも購入機会が多数回に及べば多額の金銭が流出することになる。その結果、生活費を脅かすほどの出費により負債が増大していった人が多数存在している。

 

  ネットで手軽に購入できるという点では宝くじも同様であり、これを繰り返していた人もいる。こちらも少額で購入できることから少なくない頻度で購入している人もいるが、競馬等に比べてギャンブルの高揚感が少ないためか、支払い不能の主たる原因となったケースは少ない。もっとも、宝くじの場合も借金返済に苦慮している状態で繰り返し購入することが浪費となることは否定できない。

 

3 アイドル等の追っかけ
  アイドルの追っかけのために借金が増えたという事例もいくつか存在する。当事務所で取り扱った事案は全て女性であり、いわゆるジャニーズ系や韓流アイドルにはまった人たちであった。

  筆者も以前ローカル系アイドルのライブへしばしば通ったことがあり、その経験からすれば、アイドルの追っかけにはまる気持ちはわからないでもない。しかし、全てのライブやツアーに同行しグッズを購入するとなれば、その経済的負担は少なくない。そして、そういったことに嵌まるのは多くの場合収入も資産も多くはない若い女性であることから、クレジットカード等の利用を繰り返すうちに借金がかさんでいってしまうのである。

 

4 パチンコ
  最近、パチンコにはまったという破産者は減っているようである。その原因は、コロナ禍で店舗へ行くことを控えるようになったことや、より手軽なギャンブルが出てきたこと、パチンコでのリターンが規制により少額になったことなどがあると思われる。

  ただし、そうではあっても依然パチンコにはまって生活費を圧迫する事態に陥ったことが破産の原因とされるケースも存在する。町中に手軽にあるギャンブルとしては依然パチンコは健在であり、破産の原因となり得る可能性は否定できない。

 

 ・・・以上、これらは、お金をつぎ込んで得られるリターンの高揚感・期待感という点で一致している(※)

 

 ただ、競馬・パチンコ等、明らかにギャンブルとされているものよりも、FX取引のような「投資まがい」へ金銭をつぎ込むほうが、損をしたときの喪失感が多く、これを取り返そうとして深みに嵌る可能性が大きいようである。

 

  いずれにしても、嵌まってしまうことで破産に至る浪費の類型について紹介してみた。

 

(※)アイドルの追っかけで金銭的なリターンはないが、アイドルを応援することで彼らに顔を覚えてもらえたり、アイドルがメジャーデビューするといったことが,彼女たちへのリターンとかんがえられる。

 カテゴリー : 法律

債務整理事件における弁護士の面談の必要性(追記

 弁護士が債務整理事件(任意整理、自己破産、個人再生手続など)を受任するに当たっては依頼を受ける弁護士が、直接依頼者と面談しなければならないのが原則とされています。

 

日本弁護士連合会・債務整理受任のルールについて
https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/cost/legal_aid/saimuseiri.html
債務整理事件処理の規律を定める規程
https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/jfba_info/rules/kaiki/kaiki_no_93r.pdf

 

 このことからすれば、全国展開している事務所であっても、依頼者とは直接面談するのが原則であり、やむを得ない場合のみWEBやメール等の手段で連絡を取ることが容認されているのみです。

 

 当職が聞き及ぶところによると、受任後も含めて実際の面談を行わず債務整理事件を処理している法律事務所があります。また事務所での面談を行うものの弁護士自身はあいさつ程度で終わり、実際の事件内容の聴取は専ら事務員に任せているところもあるようです。

 

 こういった事務所が顧客のために債務整理を適切に行えていないとは限りませんし、実際に債務整理をお願いした方にとって満足のいく解決であったケースもあるでしょう。

 

 しかしやはり弁護士会の規定を遵守していない法律事務所に依頼されることは、以下のデメリットがあると思います。

1 実際に弁護士が面談していないことで,依頼者に連絡や報告が

 十分になされず、実際の債務整理の内容が把握できないまま、支払を

 継続する危険性があること。
2 弁護士が債務整理を担当しない事務所では非弁提携の可能性

  があり、その弁護士が弁護士会から業務停止等の懲戒を受けた場合、

  支払がストップしてしまう危険性があること。

 

 結局、弁護士が面談しないことで依頼者が自分の債務整理について残債務の状況や解決内容(破産申立が進んでいるのか、任意整理の場合どこまで支払いが完了しているのかと言ったような点について)について十分に把握できなくなったり、弁護士が懲戒にかかると依頼者の業務もストップしてしまいますので,これらの危険性をはらんでいることからすれば、債務整理(任意整理のみならず、自己破産や個人再生も含めて)を依頼される方は実際に弁護士自身が面談してくれる事務所へ依頼されるべきだと思います。

 カテゴリー : 一般, 法律

令和6年のゴールデンウイークの執務状況

当事務所のゴールデンウイークの執務状況については以下のとおりです。

 

4月27日(土) お休みさせていただきます。

4月28日(日) 午後1時から午後5時まで

         (但し相談予約申込があれば左記時間外も調整いたします。)

4月29日(月) 同上

4月30日(火) 通常どおり営業します。

5月1日(水)  通常どおり営業します。

5月2日(木)  通常どおり営業します。

5月3日(金)  午後1時から午後5時まで

         (但し相談予約申込があれば左記時間外も調整いたします。)

5月4日(土)  同上

5月5日(日)  同上

5月6日(月)  同上

※5月3日から6日までは、ご相談の予約状況その他により、お休みさせていただくことがあります。

 

以上よろしくお願い申し上げます。

 

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令和4年度司法試験民事系1(民法)解答例

問題文はこちら↓

https://www.moj.go.jp/content/001371990.pdf

 

【解答例】
第1 設問1(1)について
1 まず、AがCの請求を拒むことができる根拠として、Bに登記手続に

  必要な書類を交付したのは、抵当権抹消に必要と言われたからに過

  ぎず、Bへ甲土地を売却する契約をしたことはなく、よって甲土地の所

  有権はAからBに移転していないと主張することが考えられる。
2 これに対してCからは、AはBに対して抵当権抹消の権限を与えた

  ことから、これに基づいてなされた甲土地の所有権移転登記を信頼

  したことにより保護されないか。
(1)まず、AはBとの間で虚偽表示をしたわけではないので、Cは

   94条2項による保護は受けられない。しかし、真の権利者が

   外形の作出に帰責性ある場合に外形を信頼した者を保護すべき

   であり、そのような場合には94条2項や110条の類推適用

   により保護すべきである(権利外観法理)。
(2)Aは甲土地の売却を考えていたところ、Bに所有権移転登記

   手続に必要な書類等の交付をした結果、Bへの虚偽の所有権移転

   登記へ作出に寄与していることから、Aに外形作出への帰責性があり、

   Cがかかる外形を信頼するに正当な理由があれば94条2項、

   110条の法意による保護を受けうると解される。
(3)以上を前提にCが保護されるかを検討する。
 ア まず、Aはこれに対し、抵当権の抹消登記手続を委託したBの言葉

   を信じ、所有権移転登記手続に必要な書類一式を交付してしまった

   ものであるが、これは不動産取引経験のないAが、不動産業に携わる

   Bに騙されたことによる。またBはAが契約①の契約を偽造し、わずか

   15日の間に甲土地の移転登記手続と契約②の締結を行っている。

   このことからすれば、Aの帰責性は積極的に外観作出した場合に比べ

   大きいものとはいえない。
 イ また、Cについても、BがAから取得した甲土地を短期間のうちに手放

   すことになった経緯につき疑問を感じたにもかかわらずBからの説明のみ

   で外形を信頼したことからすれば、正当な理由があったとはいえない。
 ウ 以上より、Cに94条2項、110条の類推適用や法意の類推に

   よる保護を受けることはできないと解する。
3 よってCは、甲土地の所有権を取得することはできず、AはCの請求を

   拒むことはできない。

第2 設問1(2)について
1 Dの請求1について
(1)DのCに対する請求1がみとめられるには、前提として甲土地に

   ついて、Dとの二重譲渡関係にあるB(Cの前主)に甲土地の

   譲受を対抗できなければならない。
 ア BとDはともに所有者Aから甲土地を譲り受けたものであり、その

  優劣は登記の先後によって決まるのが原則である(177条)。

  しかし、Bが背信的悪意者といえる場合には、「登記の欠缺を主張

  するに正当な利益を有する」とはいえず、177条に言う「第三者」

  とはいえないとされる。
 イ 思うに、BはAからDとの契約を進めるべく抵当権抹消を依頼され

  ていたにもかかわらず、もっぱらDを損害を与える目的で自らが甲土地を

  取得したものであり正当な競争に基づいて所有権移転登記を経た

  ものとはいえない。よってBはDとの関係では背信的悪意者であって、

  登記の欠缺を主張するに正当な利益を有する第三者とはいえない。
 ウ よってDはBに対しては登記なくして甲土地の譲受を対抗できる。
(2)では、DはBからの甲土地の譲受人であるCに対しても登記

  なくしてその所有権を主張できるか。
   思うに背信的悪意者が排除されるのは、信義則上登記の欠缺を

  主張することが許されないからであり、背信的悪意者からの譲受人が

  直ちに信義則違反とはいえず、譲受人自身にも背信性が認められ

  なければならないと解する。Cについては、BがDに損害を与える意図

  までは認識しておらず、特にBと同様の背信性は認められない。
   よって、CはDとの関係では177条の第三者に該当しDはCに

  甲土地の所有権取得を対抗できない。
2 Dの請求2について
(1)Dの請求2が認められるための法的根拠としては、DのAに対

   する債権を保全するために詐害行為取消権(424条)が

   考えられる。
(2)詐害行為取消権の要件としては、債権を保全するためであることが

   必要である。
 ア まず被保全債権について、DのAに対する債権は甲土地の所有権

   移転登記請求権だが、特定の権利を保全する為に詐害行為取消

   権を行使することができるかが問題となる。
    確かに、詐害行為取消権は責任財産の保全のための制度であり、

   特定の権利を保全するために行使することはできない。ただ、特定の

   権利についても不履行となった場合には損害賠償請求権に転化する

   のであって、これを保全するために被保全債権制を否定されることはない。
 イ 次に詐害行為の対象行為は、Bへの売却行為であるが、甲土地の

   時価4,000万円であるところ、2,000万円での売却と

   いうものであって、またAが債務超過であったことからすれば、かかる

   売却行為には詐害行為性がみとめられる。
 ウ BにDへの詐害意図があったことは明らかであり、AB間の契約④

   を詐害行為として取り消すことができる。
(3)では、転得者であるCに対して契約⑤について詐害行為として

   取消を主張できるか。
 ア 転得者への詐害行為取消請求(424条の5)の要件としては、

   転得者が「債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき

   (1号)」に該当することが必要である。
 イ Cは契約⑤締結時に、AD間の契約③の存在及びAが十分な

   資力を有していないことを知っていたが、Bの加害意図は知らなかった。

   このような場合にも「債権者を害することを知っていたとき」にあたるか。
 ウ 思うに、詐害行為取消権が、債務者の財産保全を目的とするもので

   あることからすれば、当該行為の際、債務者の無資力及び対象

   となる詐害行為の存在でたりると解する。
 エ 本問では、転得者CはAD間の契約③の存在及びAが十分な

   資力を有していないことを知っていたのであって債権者Dを害する

   ことを知っていたと言うべきである。よって、DはCに対して詐害行為

    取消権を行使できる。
(4)DがCに対して詐害行為取消権により、甲土地につきAへの所有

    権移転登記手続を請求しうる。424条の6第2項で「転得者

    に対する詐害行為取消請求において,債務者がした行為の取消

   しとともに、転得者が転得した財産の返還を請求することができる。」

   とあるが、これはDへの直接の移転登記請求ではなく、債務者Aへの

   移転登記請求を意味すると解すべきである。

第3 設問2について
1 ㋐の主張の根拠について
(1)まず、GはFから乙建物を賃借しているところ、乙建物がFから

   Hに譲渡され登記を経たことにより、Hは賃貸人としての地位をG

   に対抗できる(借地借家法31条)一方で、賃貸目的物の

   譲受人Hに賃貸人たる地位が移転することとなる

   (民法605条の2第1項)。
(2)その結果、GはHを乙の賃貸人として取り扱うこととなり、Fに対して

    賃料を支払う必要はないというのが㋐の主張である。
2 ㋑の反論について
(1)これに対して、「賃貸人の地位が直ちにHに移転する効果を生ず

   べき譲渡があったわけではない。」と言う㋑の反論については、契約⑦

   は「借入金を担保する目的」である点を根拠にするものである。
(2)まず、契約⑦は、債権担保のための譲渡(譲渡担保)である

   から、かかる契約の性質をどのように捉えるかが問題となる。
   思うに、債権担保を目的にその所有権を移転する以上、端的に

   担保権としての性質の限度で権利が移転していると解すべきである。

   そのような観点からすれば、乙建物の所有権は確定的に移転

   しているとはいえず、依然Fに保留されていると解すべきである。
(3)もっとも、本件においては、被担保債権である債務αの弁済期が

   経過しているが、Hにおいて契約⑦に基づく担保の実行も、乙建物

   の第三者への処分もしていないことから、確定的に乙建物の所有権

   はHに移転していない。よって乙建物の「譲渡」がなされたとはいえない。
(4)以上より、Fの㋑の主張には根拠があり、請求3は認められる。
3 更に㋒の主張について
(1)仮に、譲渡担保が所有権を移転させる法形式をとる以上、

  605条の2第1項に言う「譲渡」がなされたとしても、㋒の主張が

  みとめられるかを検討する。
(2)この点、賃借建物が譲渡された場合であっても、なお譲渡人に

   賃貸人としての地位が保留されるためには、民法605条の2第2項

   により、(ⅰ)賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨の合意及び(ⅱ)

   その不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意が必要とされる。
(3)本件では、FH間において、(ⅰ)の合意はみとめられるが(ⅱ)の

   合意は認められない。
   しかし、賃貸人としての地位を留保する契約は債権担保を目的と

   するものであり、(ⅱ)の合意がなくても、目的物の譲渡人が譲受人

   に対して、貸金の定期的な返済を約束しているのであれば、(ⅱ)の

   合意と同様の効果があるものと考えられる。よって、605条の2

   第2項を類推適用により契約⑦の合意で賃貸人としての地位留保

   を賃借人に対抗できると解する。
   これに対して、既に譲受人に対して登記が移転している以上、

   賃借人Gは賃貸人としての地位が移転しているかどうかの判断

   がなしえず、賃料不払いのリスクを負うことになって不当であるとの

   反論もあり得るが、賃借人は元の賃貸人に問い合わせることも

   可能であるし、民法478条や供託(494条2項)によって

   保護されると考えられるから、前述のように解しても不当であるとは

   いえない。
(4)よって、仮に㋑の反論が認められなくても、㋒の主張がみとめら

   れるのであって、以上を根拠に請求3は認められる。

第4 設問3について
1 KのMに対する丙不動産を贈与する旨の契約(契約⑧)は、

  死因贈与である。
  契約⑧では、Kの死亡の際に丙不動産の所有権をMの相続

  人であるLが移転すべき義務を負うことになる。
2 これに対して、Kは後にNに贈与する旨の遺言書を作成している

  ところ、契約⑧は、Mへの遺贈する旨の遺言と抵触する。死因贈与に

  ついては、「その性質に反しない限り」遺贈の規定が準用される

  (554条)ことから、契約⑧と抵触する遺言書により撤回された

  とするのが㋓の主張の根拠である。
3 そこで、遺言の撤回(1023条)が死因贈与にも準用される

  かが問題となる。
(1)思うに、遺言者がその財産を生前には自由に処分できるも

  のであって、その最終的な意思を尊重するのが妥当であることから、

  原則として遺言を自由に撤回できるものとし、また遺言に抵触する

  法律行為がなされた際は遺言を撤回したものと見なすこととした

  ものである。
(2)そうだとすれば、死因贈与についても贈与者の死亡を原因

  として財産権を受贈者に移転するものである点で遺贈と同様であり、

  先になされた死因贈与に抵触する新たな遺言がなされた場合は、

  1023条により死因贈与が撤回されるものと解すべきである。
(3)この点、死因贈与は遺贈と異なり契約であるから,受贈者の

  期待権を一方的に侵害することはできないとして、遺言により撤回

  できないとする反論が考えられる。しかし、通常の死因贈与におい

  てはもっぱら受贈者は利益を受けるのみであり、かかる期待よりも

   遺言者の最終意思が原則として尊重されるべきであると解する。

  そして、契約⑧は単にMに丙を贈与するというものであり、Mの期待

  をKの最終意思に優先して保護すべき理由はない。
(4)以上より、Mへの死因贈与は民法1023条により後の

   遺言により撤回されたとみなされ、請求4は認められない。
                                     以上

 カテゴリー : 一般, 法律

令和3年度 司法試験刑事系(刑法)解答例

問題文はこちら↓

https://www.moj.go.jp/content/001350706.pdf

 

令和3年度 司法試験刑事系1(刑法)
【解答例】
第1 設問1について
1 甲の罪責
   甲は乙とB店へ押し入って腕時計を強奪することを共謀していたが、

  実際にはB店を看守する丙と意思を通じて「強盗」を演じたのであって、 

  「暴行・脅迫を手段としての財物の奪取」はなされておらず、単に時計

  を窃取したに過ぎない。よって、甲にはB天からの時計の奪取は窃盗

  罪を構成するのであって,強盗罪は成立しない。
2 丙の罪責
(1)丙は甲と共謀して強盗を装って,自己が勤務するB店から甲が

      時計を窃取することに加功している。よって丙は窃盗罪の共犯となる

      が、共同正犯か、狭義の共犯(教唆・幇助)かが問題となる。
     丙は,甲から話を聞いてB店の状況(開店前なら客は来ないと

      言うような)についての情報提供をしていること、甲から協力を求めら

      れたのは警備体制に関する情報であったところ、これにとどまらず積極

      的に甲が「強盗」を演じる手助けを自ら提案し,実際にもそれをして

      いること、甲の奪取が成功した暁には、分け前を要求していることから

      すれば、甲の窃盗を単に手助けしたにとどまらず、甲との間で窃盗に

      ついて自己の犯罪を実現させようとしたものといえる。よって丙には窃

      盗罪の共同正犯が成立する。
(2)なお、丙は、B店の副支店長であり、帳簿作成や売上金管理等

     の業務をしていたことから、横領罪の成立が問題となるが、丙にはB

     店において商品の仕入や店外への持ち出し等の権限はないことからす

    れば、B店の商品に対する占有者とはいえない。よって、甲と共同した

    時計の奪取行為には横領罪は成立せず、専ら窃盗罪が成立する。
3 乙の罪責について
(1)乙は甲と強盗罪を共謀したものであるが、実際には甲は「強盗」を

      丙と演じているに過ぎず、乙は窃盗罪に加功した認識はない。
      しかし、乙は甲との共謀の結果、甲とのあいだで役割分担として見

      張り役をしており、その機会において甲が強盗ではなく窃盗を行ったもの

      であり、客観的に乙が甲の行為に加功した(本件窃盗行為における

       意思の連絡の射程内である)ことは否定できない。
(2)そして、乙は強盗罪に加功する意思であった点についても、構成要件

       の重なり合う限度で故意は認められるのであって、甲との間で窃盗罪

       の共犯としての罪責を負う。
(3)では、乙は窃盗罪の共同正犯となるのか幇助に過ぎないのか。

        乙の役割は見張り行為であることから、実行行為の分担をしていない

     のではないかが問題となる。
    思うに、共同正犯は本来単独で行うべき犯罪を他の行為者と意思

    を通じ合って実行することで、心理的及び物理的に相互に補完・援助し

    合う点に処罰の根拠が認められる。よって、行為時の役割のみで判断

    すべきではなく共謀により自己の犯罪を他人を介して実現しようとする

    ものであるか否かで判断すべきである。

       そうだとすれば、単に実行時に見張り役であったとしても、他の行為者

    の行為を自己の行為と同視しうる立場でこれを容易にすべきものであっ

    た場合は共同正犯となり得ると解する。
   本件の乙については当初から甲と共謀をしており、その中で乙が見張り

    役・甲の逃亡の援助役を分担をしたものであって、また甲の奪ってきた

    時計をその行為の分け前としてもらうこととなっていた点も踏まえると、実行

    者である甲の手助けをしているにとどまらず,甲の行為を自己の行為

    として役割を分担しているものである。よって、乙についても甲の窃盗に

    ついて、その共同正犯としての責めを負う。
4 丁の罪責
(1)丁は丙から,B店から奪ってきた時計在中のバッグを預かったもの

      であるが、預かった時点ではバッグの中身も事情も知らない以上、

       盗品等保管罪は成立しない。
(2)その後、不審に思ってバッグの中身を見た際に、丙がB店から無断

      で持ち出した商品であると認識した上でなおこれを保管し続けた点は

      丁に盗品保管罪が成立するか。
     思うに、盗品等の罪の保護法益は、本来の権利者が窃盗その他

     の財産犯に対して当該物に対して追求する権利であり、同罪はこれ

     を侵害するものであると解される。そうだとすれば、保管の当初盗品で

     あることを知らなかったとしても、情を通じて以降もなお保管を継続した

     とすれば、その時点からかかる追求権を侵害したことになる。

       よって,丁には盗品等保管罪が成立する。
(3)なお、丁が預かったのは丙が窃盗により取得してきた時計類である

      ところ、丁は乙が勝手に持ち出したと認識しているが、盗品であること

      の認識に齟齬はない以上、この点が丁の故意を阻却することにはならない。

第2 設問2について
1 設問2(1)について
(1)乙の頭部裂傷の傷害は、甲丙の暴行の共同正犯によるといえるか。
      この点、当初の暴行(丙が乙を羽交い締めにし、甲が木刀で乙の

      頭部を殴った点)は甲と丙の共同にてなされたものであるが、途中で

      乙の言動に立腹した丙が更なる暴行に及んだ(ここまでを以下、第1

      暴行という)ところ、甲が暴行を終了させようとしたにもかかわらず、な

      おも丙は甲を殴って転倒・気絶させ、その後も乙に暴行を加えたもの

     (以下「第2暴行」という)である。
(2)そうすると、甲に乙の頭部裂傷の傷害結果に関する刑事責任を負わ

   ないとする立場は、第2暴行について甲が共同正犯としての責任を負

   わないとしなければならない。

   そのための説明としては以下の2点が考えられる。
 ア 共謀の射程の問題
   まず、第2暴行は、甲は丙から殴打され、気絶しており、その後の丙の

  暴行は丙単独で行われていることから、当該暴行は甲と丙の共謀の射程

  外であると説明が考えられる。
   すなわち、当該行為が共同正犯の範囲内にあるといえるには共謀の内

  容等に照らして射程内にあるといえなければならないが、当初の行為から

  共同行為者の一人が他の者の予想外の行為に及んだときは共謀の射

  程外であるといえる。本件においても、甲は、当初の共謀では甲は自ら

  が殴打すべく、丙には乙を押さえてもらうよう頼んでいたところ、第2暴行

  については丙が乙を殴打するに及んでおり、この点は甲の予想外と言わ

  ざるを得ず、共同正犯としての責任を負わない、と説明することになる。
 イ 共犯関係の解消
   また、共同行為者間において途中でその一部が行為から離脱したと

  認められるような場合には,離脱以降の行為について因果的に寄与

  していないことから責任を負わないとされる。この点本件では第2暴行

  には甲は関与しておらず、その理由が丙から暴行を受けたことで、自身が

  以降の暴行に関与できなくなったことや、以降の暴行は専ら丙の判断

  でなされていることからすれば,因果的に行為に寄与したとはいえず、

  第2暴行の時点では共犯関係が解消していると説明することが考えられる。
(3)もっとも、上記アイが認められた場合でも甲に同時傷害の特例(207条)

   が適用され、共犯として扱われる結果、本件傷害結果について責任を負う

   ことになり得る。
    しかし、同条は、疑わしきは被告人の利益にという刑事責任の大原則

   に反するものであり、適用範囲は限定的にとらえる必要がある。そこで、

   傷害結果に責任を負うものがいない場合についてのみ207条が適用

   されると考える。
    本件では、丙が乙に対する一連の暴行にすべて関与しており、本件

   傷害結果について責任を負うことになる。
    よって、甲に207条の適用はなく、甲は乙の傷害結果に関する

   刑事責任は負わない。
2 設問2(2)について
(1)甲に乙の頭部裂傷の傷害結果に関する刑事責任を負うとする立場は、

   前述1(2)の説明を否定することにより説明することになる。
 ア 共謀の射程について
   この点、当該行為が共同正犯の範囲内にあるといえるには共謀の射程は、

  時間的場所的接着性、共謀の内容と具体的な経過の齟齬の程度、等

  を考慮すべきであるところ、甲丙は,乙に傷害を与える旨の共謀をして

  いること、被害者の態度が予見可能なものであること、丙の暴行は甲との

  共謀に基づいてなされた暴行に密着してなされていること、からすれば、

  共謀の射程外とはいえないと説明することになる。そうすると本問において

  なされた第1,第2の暴行全てが共同正犯としてなされたものとして

  いずれの暴行によるかにかかわらず、甲には乙に対する傷害に対して共同

  正犯としての責めを負うことになる。
 イ 共犯関係からの解消について
   共犯関係からの離脱の要件としては、共犯関係からの離脱が了承される

  ことによって、共犯関係における因果の流れを断ち切ったといえる必要がある。

  この点、本件では丙が甲の離脱を了承したという事情もない。
   もっとも、第2暴行は丙が甲の制止を振り切ってなされており、かつその暴

  行時に甲は気絶をしている状態を認識しつつなされていることから、第1

  暴行と時間的場所的に接着しており、第2暴行は甲と丙の共謀が発端

  となっていることからすれば、甲は第2暴行との因果の流れを断ち切ったと

  までいえないと考える。よって甲に共犯関係からの離脱ないし解消は認め

  られないと説明することにより、甲には乙の頭部裂傷についても傷害罪の

  共同正犯として責任を負うこととなる。
(2)仮に、甲に第2暴行について共謀関係の射程外であるか、共犯関係

   からの離脱ないし解消が認められたとしても、207条の適用があるとさ

   れるのであれば、甲は乙の頭部裂傷についても責任を負うこととなる。
 ア この点、傷害結果について責任を負う者がいる場合に207条が適用

  されないとすると、傷害結果について責任を負う者がいない場合と比べて

  不均衡な結果となるとして、207条は、➀2人以上の者が、意思の

  連絡なくして同一人に故意に基づいて暴行を加えた事実が存在し、

  ②暴行が同一機会に行われ、③傷害となる暴行が特定できなかった場合

  に認められる,とする見解が考えられる。
 イ この見解からすれば、本件では、甲と丙が乙に対する暴行を共謀しては

  いるものの、第1暴行は乙が到着するや否や丙が乙を羽交い絞めにして

  甲が殴っており、第2暴行も甲が気絶している間に行われたものであるから、

  互いの意思の連絡なく乙に暴行を加えている(➀)。また、第1暴行と第2

  暴行は同一の場所で、時間も近接した中で行われているので同一の

  機会に行われたといえる(②)。そして、乙の傷害結果が第1暴行による

  ものか、第2暴行によるものかいずれの暴行から形成されたのか不明で

  あるから、傷害となる暴行が特定できなかった場合といえる(③)。
 ウ 以上より、かかる見解からは207条が適用され、甲は乙の傷害結果

  について刑事責任を負うとの反論が考えられる。
                                         以 上

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