ブブカスペシャル7事件(パブリシティ権の判例8)
ブブカスペシャル7事件(控訴審・東京高裁H18.4.26)
「またブブカか!」という声が聞こえてきそうな気もするが(笑)、以前紹介した「@BUBUKA事件」と同じ出版社とその代表者が被告
となった事案である。
本件は、「ブブカスペシャル7」と言う雑誌(以下本件雑誌)にタレントX(モーニング娘。や佐藤江梨子、藤原紀香、深田恭子、優香など
そうそうたるメンバーである!)の肖像写真等を掲載した点について、雑誌社Y(株式会社コアマガジン及びその取締役ら)に対し、
プライバシー権やパブリシティ権の侵害を理由に損害賠償請求を求めたものである。
本件では、一審(東京地裁H16.7.14)がパブリシティ権の侵害を認めなかった(プライバシー権侵害は肯定)のに対して、本判決は
パブリシティ権の侵害も認めたものである。
@BUBUKA事件では、一般論としてもパブリシティ権を認めることに消極的であり、また肖像等の雑誌掲載についても、パブリシティ権の
内容を限定的にとらえることによって結論的にはその侵害を認めなかったのだが、本件では、パブリシティ権を積極的に根拠づけようとし、
また侵害の成否も@BUBUKA事件に比べ、相当緩やかな基準でこれを認めようとしたと思われる。
すなわち、まず、本判決は、著名人がパブリシティ権を享受しうる根拠について、相当積極的に論じている。
「一般に、固有の名声、社会的評価、知名度等を獲得した著名な芸能人の氏名、芸名、肖像等(氏名、芸名を含め、以下「肖像等」という。)
を商品に付した場合には、当該商品の販売促進に有益な効果、すなわち、顧客吸引力があることは、一般によく知られており、著名な芸能人
には、その肖像等が有する顧客吸引力を経済的な利益ないし価値として把握し、これを独占的に享受することができる法律上の地位を有する
ものと解される。
けだし、芸能人は、その芸能の卓越し、秀でることを目指し、その芸能を高めることを追求しようとする職業人であって、日常的な稽古、練習、
レッスン等によりその芸能を磨き、磨いた芸能を観客、聴衆、視聴者などに披露し、その拍手喝采あるいは逆の不評、不人気を受けていずれ
の評価をもこれを糧として更なる披露の機会を目指す者であり、その固有の名声、社会的評価、知名度等が世の中に知れ渡る著名な芸能人
になるためには、天賦の才能等に加え、相当の精神的、肉体的な修練とその修練を積み重ねるにつき必要不可欠な出費に耐える労苦とを
要することが明らかであり、芸能人がその様に著名な芸能人として知れ渡った暁には、当該芸能人がその固有の名声、社会的評価、知名度
等を表現する機能がある肖像等が具有する顧客吸引力に係る経済的価値を独占的に享受することは、当該芸能人が努力した上記のような
修練、労苦等のもたらす当然の帰結であるからである。」
要するに、芸能人が有名になるにはその芸を磨くための努力を続けたからであって、その獲得した著名性
(=顧客吸引力に係る経済的な価値)を独占できるのは、その努力のもたらす当然の結果だというものである。
確かに、著名人の顧客吸引力に係る経済的な価値に法的保護を与えるというのがパブリシティ権の実質的な根拠であるが、ここまで
芸能人の著名性を獲得するための努力を強調する点が、本判決が、パブリシティ権を認めてあげたい!とするための前振りであると
読み取れる(笑)。
次に、芸能人の上記の経済的な価値が他人に侵害された場合には、以下のような弊害が生じるという。
「著名な芸能人の上記のような法律上の地位は、パブリシティ権と称されるところ、著名な芸能人は、その肖像等が有する顧客吸引力が
正当に人々に利用されいよいよ大きなものとなることを望むものの、他の者により無断でこれらが不当に取り扱われることによりその有する
固有の名声、社会的評価、知名度等が損なわれたり、汚されたりしてその芸能を披露するのに妨げとなることに対しては、許せるわけでは
ないし、その肖像等が人々から悪いイメージで受け止められたり、飽きられたりすることに対しても、無関心ではあり得ないと認められる。
ところが、当該芸能人の顧客吸引力を利用することに伴う多大な経済的効果に眼を奪われて当該芸能人の肖像等を無断で利用する者が
現れるのであって、このような無断の商業的利用の場合においては、当該芸能人の固有の名声、社会的評価、知名度等を意識的無意識的に
歪曲ないし軽視し、これを損なわせ、汚す(当該芸能人が自らあるいはその許諾のもとにその顧客吸引力を商品化し、あるいは宣伝に用いる
場合とは異なり、とかく猥雑、下品、劣等なものとなりがちである)こととなり、ファンなどが離れ、当該芸能人の肖像等のイメージが悪くなり、
これが飽きられるなどの不人気の弊害すら招きかねないのである。」
せっかく手に入れたパブリシティ権が、他の者が無断でこれを不当に取り扱うことは、当該芸能人の社会的評価や知名度が損なわれたり、
汚されたりすることで、当該芸能人にとってイメージダウンにつながるという弊害が生じるという。
その上で、本判決は、パブリシティ権侵害が不法行為になる場合として、
「他の者が、当該芸能人に無断で、その顧客吸引力を表す肖像等を商業的な方法で利用する場合」をあげており、そこに特に限定はない。
さらに、本判決は、音楽事業者協会(音事協)と雑誌社との間に協定が存在しており、その内容も、パブリシティ権を最大限尊重し、
音事協所属の芸能人への取材に際しては原則として取材協力費を支払うこと、取材協力費を支払わないでよい場合を記者会見取材や
慶弔時に関する取材に限定するなどを、パブリシティ権が実務上の慣例であるかのようにその根拠付に援用している。
以上のように、本判決はパブリシティ権を相当広く認めようとする立場であると理解できるが、単なる業界団体との協定をその根拠に
援用しようとするのは少々やり過ぎではないかと言う気もしないではない。
本判決による、音楽事業者協会と雑誌社の間の協定概要について
「・・・の証拠によれば、日本音楽事業者協会と多くの雑誌出版社の間で、日本音楽事業者協会に所属する芸能人の肖像・パブリシティ権を
最大限尊重すること、取材に対する取材協力費を支払うこと、芸能人の肖像権の無断使用を行わないことなどについての覚書が締結されて
いる状況が認められ、そこでは、同時に、取材協力費について支払対象から除外するものとして①記者会見取材、②音楽演劇等のステージ
取材、③番組取材、④慶弔時に関する取材に限定しており、これらは、芸能活動に対する正当な紹介、批評、プライバシーに属するといっても
著名な芸能人であるがゆえに制限されてもやむを得ない慶弔時の取材に限られており、芸能人のパブリシティ権と正当な表現の自由との
間の相応の利益衡量もなされた内容となっており、芸能人のパブリシティ権と正当な表現の自由との間の相応の利益衡量もなされた内容と
なっており、一審被告会社も、同様の和解(甲四八)や合意書(甲二)を通じて一旦は、上記の所属芸能人の肖像・パブリシティ権に対する
尊重を受け容れたところでもあり、以上のような事実も、前記のように、著名な芸能人の肖像等の無断利用行為につき不法行為の成立を
肯認する解釈適用の正当性を基礎づけるものと考えられるのである。」
本判決はパブリシティ権を相当広く認めようとする見解に立脚しているが、最高裁のピンクレディ事件の「専ら」基準に則した場合、
同様の結論となるかどうかは疑問である。
この点、ピンクレディ事件について評釈された内藤篤弁護士も、むしろこの事件のような「限界事例」でこそ、最高裁は判断を示して
欲しかった、とおっしゃっておられる(NBL976「『残念な判決』としてのピンク・レディー最高裁判決」23頁以下)が、基本的には私も
同感である。
【事件名】
ブブカスペシャル7事件(控訴審判決)
【裁判所・判決日】
東京高裁H18.4.26
【出 典】
判時1954-47
【結 果】
パブリシティ侵害を肯定
(損害賠償請求一部認容)
【被侵害客体】
タレントの写真(グラビア料の発生しないもの)
【侵害態様】
タレントの肖像・氏名を雑誌の特集頁に掲載したもの
【備考・その他】
パブリシティ権を積極的に肯定。
緩和された判断基準か?