おニャン子クラブ事件(パブリシティ権の判例6)
これもまた古い事件だが、私たちの世代が心をときめかしたのは(古い表現だな・・・)AKBでもモーニング娘。でもなく、おニャン子だった(笑)。
本件は、おニャン子クラブに属するタレント(X)が、その承諾を得ることなくXらの写真(実演肖像)や氏名を掲載したカレンダー等を販売して
いた業者(Y)に対して、当該カレンダー等の販売の差止め及び損害賠償を請求した事案である。
例によって、最高裁判決が出た現在においては、本件のような態様が、
「商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付する場合」
に該当し、
「専ら顧客吸引力の利用を目的とする場合」
としてパブリシティ権の侵害に当たることはまず争いのないところであろう。
ただ、当時としては、いかなる法的根拠に基づきYに対し差止め及び損害賠償を主張するかが問題であったのだろう。
この点、第一審(東京地裁H2.12.21)は、みだりに他人に肖像や氏名を利用されないという人格的利益を根拠に差止め請求を認め、
精神的損害と共に氏名・肖像権侵害に基づく財産的損害を認めた。
これに対し、控訴審判決(東京高裁H3.9.26)では、人格的利益の侵害は認めず、もっぱら経済的利益たる氏名・肖像権侵害のみの成立を
認め、それを根拠に差止め請求を認め、またもっぱら財産的損害についての賠償を認めた。
前述のように、
最高裁の視点から見ると、Yの販売態様に鑑みると、もっぱらパブリシティ権の侵害以外の成立は認められず、第一審のようにXに
精神的損害が生じると解するのは、困難ではないかと思われる。
一方で、
控訴審判決は、もっぱらXの利益を
「芸能人の氏名・肖像が持つ顧客吸引力は、当該芸能人の獲得した名声、社会的評価、知名度等から生ずる独立した経済的な利益ないし
価値として把握することが可能であるから」
「当該芸能人は、かかる顧客吸引力の持つ経済的な利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利を有するものと認めるのが相当である。」
として財産権である旨を正面から肯定する。
そしてこれを根拠に差止め請求も肯定するのだが、果たして人格権としての側面を意識することなく、差止め請求が可能かは疑問である。
この点、最高裁はパブリシティ権が人格権であることを前提にしていることから、差止め請求を根拠づけることは容易であろう。
いずれにせよ、本件は、パブリシティ権が意識されるようになって間もない頃の判決であるが、結論的にはおそらく現在も通用する
先例であると思われる。
【事件名】
おニャン子クラブ事件(控訴審判決)
【裁判所・判決日】
東京高裁H3.9.26
【出 典】
判時1400-3
【結 果】
パブリシティ侵害を肯定
(差止請求認容、損害賠償請求一部認容)
【被侵害客体】
タレントの写真
【侵害態様】
タレントの肖像・氏名を用いたカレンダーの販売
【備考・その他】
1 原審(東京地裁H2.12.21)が人格権たる肖像検討の侵害を認めて、損害賠償及び差止めを認めたのに対し、本判決はもっぱら経済的側面の侵害を理由に損害賠償及び差止めを認めた。
2 パブリシティ権はもっぱら経済的権利であるとの理解か?(人格権とは切り離して理解するのか?)