問題文はこちら↓
https://www.moj.go.jp/content/001371990.pdf
【解答例】
第1 設問1(1)について
1 まず、AがCの請求を拒むことができる根拠として、Bに登記手続に
必要な書類を交付したのは、抵当権抹消に必要と言われたからに過
ぎず、Bへ甲土地を売却する契約をしたことはなく、よって甲土地の所
有権はAからBに移転していないと主張することが考えられる。
2 これに対してCからは、AはBに対して抵当権抹消の権限を与えた
ことから、これに基づいてなされた甲土地の所有権移転登記を信頼
したことにより保護されないか。
(1)まず、AはBとの間で虚偽表示をしたわけではないので、Cは
94条2項による保護は受けられない。しかし、真の権利者が
外形の作出に帰責性ある場合に外形を信頼した者を保護すべき
であり、そのような場合には94条2項や110条の類推適用
により保護すべきである(権利外観法理)。
(2)Aは甲土地の売却を考えていたところ、Bに所有権移転登記
手続に必要な書類等の交付をした結果、Bへの虚偽の所有権移転
登記へ作出に寄与していることから、Aに外形作出への帰責性があり、
Cがかかる外形を信頼するに正当な理由があれば94条2項、
110条の法意による保護を受けうると解される。
(3)以上を前提にCが保護されるかを検討する。
ア まず、Aはこれに対し、抵当権の抹消登記手続を委託したBの言葉
を信じ、所有権移転登記手続に必要な書類一式を交付してしまった
ものであるが、これは不動産取引経験のないAが、不動産業に携わる
Bに騙されたことによる。またBはAが契約①の契約を偽造し、わずか
15日の間に甲土地の移転登記手続と契約②の締結を行っている。
このことからすれば、Aの帰責性は積極的に外観作出した場合に比べ
大きいものとはいえない。
イ また、Cについても、BがAから取得した甲土地を短期間のうちに手放
すことになった経緯につき疑問を感じたにもかかわらずBからの説明のみ
で外形を信頼したことからすれば、正当な理由があったとはいえない。
ウ 以上より、Cに94条2項、110条の類推適用や法意の類推に
よる保護を受けることはできないと解する。
3 よってCは、甲土地の所有権を取得することはできず、AはCの請求を
拒むことはできない。
第2 設問1(2)について
1 Dの請求1について
(1)DのCに対する請求1がみとめられるには、前提として甲土地に
ついて、Dとの二重譲渡関係にあるB(Cの前主)に甲土地の
譲受を対抗できなければならない。
ア BとDはともに所有者Aから甲土地を譲り受けたものであり、その
優劣は登記の先後によって決まるのが原則である(177条)。
しかし、Bが背信的悪意者といえる場合には、「登記の欠缺を主張
するに正当な利益を有する」とはいえず、177条に言う「第三者」
とはいえないとされる。
イ 思うに、BはAからDとの契約を進めるべく抵当権抹消を依頼され
ていたにもかかわらず、もっぱらDを損害を与える目的で自らが甲土地を
取得したものであり正当な競争に基づいて所有権移転登記を経た
ものとはいえない。よってBはDとの関係では背信的悪意者であって、
登記の欠缺を主張するに正当な利益を有する第三者とはいえない。
ウ よってDはBに対しては登記なくして甲土地の譲受を対抗できる。
(2)では、DはBからの甲土地の譲受人であるCに対しても登記
なくしてその所有権を主張できるか。
思うに背信的悪意者が排除されるのは、信義則上登記の欠缺を
主張することが許されないからであり、背信的悪意者からの譲受人が
直ちに信義則違反とはいえず、譲受人自身にも背信性が認められ
なければならないと解する。Cについては、BがDに損害を与える意図
までは認識しておらず、特にBと同様の背信性は認められない。
よって、CはDとの関係では177条の第三者に該当しDはCに
甲土地の所有権取得を対抗できない。
2 Dの請求2について
(1)Dの請求2が認められるための法的根拠としては、DのAに対
する債権を保全するために詐害行為取消権(424条)が
考えられる。
(2)詐害行為取消権の要件としては、債権を保全するためであることが
必要である。
ア まず被保全債権について、DのAに対する債権は甲土地の所有権
移転登記請求権だが、特定の権利を保全する為に詐害行為取消
権を行使することができるかが問題となる。
確かに、詐害行為取消権は責任財産の保全のための制度であり、
特定の権利を保全するために行使することはできない。ただ、特定の
権利についても不履行となった場合には損害賠償請求権に転化する
のであって、これを保全するために被保全債権制を否定されることはない。
イ 次に詐害行為の対象行為は、Bへの売却行為であるが、甲土地の
時価4,000万円であるところ、2,000万円での売却と
いうものであって、またAが債務超過であったことからすれば、かかる
売却行為には詐害行為性がみとめられる。
ウ BにDへの詐害意図があったことは明らかであり、AB間の契約④
を詐害行為として取り消すことができる。
(3)では、転得者であるCに対して契約⑤について詐害行為として
取消を主張できるか。
ア 転得者への詐害行為取消請求(424条の5)の要件としては、
転得者が「債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき
(1号)」に該当することが必要である。
イ Cは契約⑤締結時に、AD間の契約③の存在及びAが十分な
資力を有していないことを知っていたが、Bの加害意図は知らなかった。
このような場合にも「債権者を害することを知っていたとき」にあたるか。
ウ 思うに、詐害行為取消権が、債務者の財産保全を目的とするもので
あることからすれば、当該行為の際、債務者の無資力及び対象
となる詐害行為の存在でたりると解する。
エ 本問では、転得者CはAD間の契約③の存在及びAが十分な
資力を有していないことを知っていたのであって債権者Dを害する
ことを知っていたと言うべきである。よって、DはCに対して詐害行為
取消権を行使できる。
(4)DがCに対して詐害行為取消権により、甲土地につきAへの所有
権移転登記手続を請求しうる。424条の6第2項で「転得者
に対する詐害行為取消請求において,債務者がした行為の取消
しとともに、転得者が転得した財産の返還を請求することができる。」
とあるが、これはDへの直接の移転登記請求ではなく、債務者Aへの
移転登記請求を意味すると解すべきである。
第3 設問2について
1 ㋐の主張の根拠について
(1)まず、GはFから乙建物を賃借しているところ、乙建物がFから
Hに譲渡され登記を経たことにより、Hは賃貸人としての地位をG
に対抗できる(借地借家法31条)一方で、賃貸目的物の
譲受人Hに賃貸人たる地位が移転することとなる
(民法605条の2第1項)。
(2)その結果、GはHを乙の賃貸人として取り扱うこととなり、Fに対して
賃料を支払う必要はないというのが㋐の主張である。
2 ㋑の反論について
(1)これに対して、「賃貸人の地位が直ちにHに移転する効果を生ず
べき譲渡があったわけではない。」と言う㋑の反論については、契約⑦
は「借入金を担保する目的」である点を根拠にするものである。
(2)まず、契約⑦は、債権担保のための譲渡(譲渡担保)である
から、かかる契約の性質をどのように捉えるかが問題となる。
思うに、債権担保を目的にその所有権を移転する以上、端的に
担保権としての性質の限度で権利が移転していると解すべきである。
そのような観点からすれば、乙建物の所有権は確定的に移転
しているとはいえず、依然Fに保留されていると解すべきである。
(3)もっとも、本件においては、被担保債権である債務αの弁済期が
経過しているが、Hにおいて契約⑦に基づく担保の実行も、乙建物
の第三者への処分もしていないことから、確定的に乙建物の所有権
はHに移転していない。よって乙建物の「譲渡」がなされたとはいえない。
(4)以上より、Fの㋑の主張には根拠があり、請求3は認められる。
3 更に㋒の主張について
(1)仮に、譲渡担保が所有権を移転させる法形式をとる以上、
605条の2第1項に言う「譲渡」がなされたとしても、㋒の主張が
みとめられるかを検討する。
(2)この点、賃借建物が譲渡された場合であっても、なお譲渡人に
賃貸人としての地位が保留されるためには、民法605条の2第2項
により、(ⅰ)賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨の合意及び(ⅱ)
その不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意が必要とされる。
(3)本件では、FH間において、(ⅰ)の合意はみとめられるが(ⅱ)の
合意は認められない。
しかし、賃貸人としての地位を留保する契約は債権担保を目的と
するものであり、(ⅱ)の合意がなくても、目的物の譲渡人が譲受人
に対して、貸金の定期的な返済を約束しているのであれば、(ⅱ)の
合意と同様の効果があるものと考えられる。よって、605条の2
第2項を類推適用により契約⑦の合意で賃貸人としての地位留保
を賃借人に対抗できると解する。
これに対して、既に譲受人に対して登記が移転している以上、
賃借人Gは賃貸人としての地位が移転しているかどうかの判断
がなしえず、賃料不払いのリスクを負うことになって不当であるとの
反論もあり得るが、賃借人は元の賃貸人に問い合わせることも
可能であるし、民法478条や供託(494条2項)によって
保護されると考えられるから、前述のように解しても不当であるとは
いえない。
(4)よって、仮に㋑の反論が認められなくても、㋒の主張がみとめら
れるのであって、以上を根拠に請求3は認められる。
第4 設問3について
1 KのMに対する丙不動産を贈与する旨の契約(契約⑧)は、
死因贈与である。
契約⑧では、Kの死亡の際に丙不動産の所有権をMの相続
人であるLが移転すべき義務を負うことになる。
2 これに対して、Kは後にNに贈与する旨の遺言書を作成している
ところ、契約⑧は、Mへの遺贈する旨の遺言と抵触する。死因贈与に
ついては、「その性質に反しない限り」遺贈の規定が準用される
(554条)ことから、契約⑧と抵触する遺言書により撤回された
とするのが㋓の主張の根拠である。
3 そこで、遺言の撤回(1023条)が死因贈与にも準用される
かが問題となる。
(1)思うに、遺言者がその財産を生前には自由に処分できるも
のであって、その最終的な意思を尊重するのが妥当であることから、
原則として遺言を自由に撤回できるものとし、また遺言に抵触する
法律行為がなされた際は遺言を撤回したものと見なすこととした
ものである。
(2)そうだとすれば、死因贈与についても贈与者の死亡を原因
として財産権を受贈者に移転するものである点で遺贈と同様であり、
先になされた死因贈与に抵触する新たな遺言がなされた場合は、
1023条により死因贈与が撤回されるものと解すべきである。
(3)この点、死因贈与は遺贈と異なり契約であるから,受贈者の
期待権を一方的に侵害することはできないとして、遺言により撤回
できないとする反論が考えられる。しかし、通常の死因贈与におい
てはもっぱら受贈者は利益を受けるのみであり、かかる期待よりも
遺言者の最終意思が原則として尊重されるべきであると解する。
そして、契約⑧は単にMに丙を贈与するというものであり、Mの期待
をKの最終意思に優先して保護すべき理由はない。
(4)以上より、Mへの死因贈与は民法1023条により後の
遺言により撤回されたとみなされ、請求4は認められない。
以上