債務整理を扱う法律事務所の中には、債務者が債権者との合意によって支払うべき分割金の支払い業務を代行するところがある。全国展開しているような,広告を多く出している事務所がそういったことを行うようである。
こういう事務所は支払代行手数料と、振込手数料の差額を自らの利益として取得するが、多数の債務者を抱えているとすれば、定期的な収入となり、事務所的にはおいしい業務なのだろう。
(アディーレ事務所などは,5万件もの支払代行を受けていたと聞いた。後述のように、一件あたりの手数料が月額1000円だとすると、同事務所はそれだけで月額5000万円売り上げていたことになる!)
しかし、このような支払代行は、債務整理で借金をなくそうと真剣に取り組んでいる債務者のためにならない。その理由は以下のとおり3つあると考える。
1 実際の債務弁済額以上の負担
支払代行は「1社あたり1回の支払につき月額あたり1000円」の手数料とするようである。
つまり、債権者が10社あると、1回の支払あたり、債務の弁済額に加えて1万円を加算して法律事務所に送金しなければならないことになる。債務者からすれば、大変無駄な出費ではないだろうか。
この点、各債権者への支払を自分でする場合でも振込手数料は負担しなければならないから、結局、差額はたいしたことはないという反論もあり得よう。
しかし振込手数料は工夫次第で安くできる。振込先と同じ銀行口座経由で振り込みすることやネット経由での振込では振込手数料は200円程度だったり無料のこともある。
仮に支払代行手数料を毎月1万円支払うとなると、自分で支払う場合に比べて、5年分割(60回)の場合、10万円から50万円もの余分な出費をすることになるのである。生活を立て直すための任意整理なのに支払わなくて良いお金を支出するというのはいかがなものであろうか。
2 債務支払への自覚の喪失
確かに振込先が多ければ、それを簡単にしたいという気持ちはわからないでもない。しかし、多重債務に陥る人は、そういった無自覚な無駄遣いが原因であることが多い。
そうだとすれば、自らの稼いだお金がただ借金の返済のためだけに使われている現状を反省すべきなのである。そのためには自らが支払の労を執る必要があると思われる。
法律事務所に任せてしまうと、そういった自分の債務を支払っているという自覚が失われる。すべての人がそうではないかもしれないが、支払を自分で行うことで、今後無駄な借入をしないように生活する意識が培われると信じている。
3 依頼した弁護士事務所が破綻による危険性
さらに問題となるのは、支払代行をしていた法律事務所が破産や懲戒を受けた時のことである。こういった場合、支払のために預けたお金が債権者への支払いに当てられていない危険性が生じる。
また、そういった事態が生じたときには、それ以降の支払を自分でするか、別の弁護士に引き継いでもらうことになる。
しかし支払代行に委ねていると、残高がどれくらい残っているか、ひどいときは債権者が誰かもわからなくなっていることが多く、その結果、支払いが遅れたことによる不利益を被る可能性もありうる。
こういうときはあらためて債権者に連絡して債務額の確認をして支払を継続することになるが、場合によっては弁護士に依頼して余分な費用をかけることになるかもしれない。
現実に、アディーレ法律事務所が業務停止の処分を受けた時にこのような混乱があったし、最近では東京ミネルヴァ法律事務所が破綻したことで、このような不利益を被った債務者が多数いると思われる。もちろん、支払代行を依頼した債務者に責任があるわけではないが、自分で支払を継続していれば避けられたトラブルなのである。
以上のように、せっかく債務整理で支払を軽減したのだから、支払を他人任せにするのではなく、自ら支払をしてほしい。そうすることで残高が減っていくことを目標にできるし、ひいては二度と借金に追われる生活を送らないことを自覚できるだろう。