不倫の相手方に対する慰謝料請求について
新年初ブログはなかなか書くことができず苦労した。
その分ややアカデミックに初めて見たい(笑)
妻(夫)の不倫相手に対して夫(妻)が慰謝料を請求することは一般的に行われていることであるが、このような請求については、
「そもそも認めるべきではないという学説が有力化しつつあり、判例もこの請求を限定しあるいは請求金額を低額化しようとする動きがあるようだ。」
といったら、あなたは驚かれるだろうか。
もともとわが国では、妻の不貞行為のみが違法とされるかのような取扱がなされていたところ、徐々に夫婦相互に貞節を守る義務があるとされ、夫の不貞もまた妻に対する違法行為と評価されるようになっていった経緯がある。
そして、第三者がこれを壊すような行為をも違法とすることで、法律が認めた夫婦関係を維持・保護しようとしてきたと、一般的には理解されている。
ところが最近、夫婦相互間において不貞は違法であったとしても、少なくとも不貞行為の相手方に対する慰謝料請求は認めるべきではない、という見解がどうも有力なようなのだ。
その背景にあるのは、個人の人格や決定権を尊重すべきであるとの考え方や、夫婦関係の在り方に対する価値観の多様化などが指摘されるが、この見解の根拠とするのは、慰謝料請求を認めることによる、実践的な不都合をあげている。
すなわち、
1 夫と妻が共謀して、第三者と不貞行為に陥れて慰謝料請求をせしめようとする、いわゆる美人局を正当化することになりかねない。
2 不貞行為の相手方である女性とのあいだに生まれた子供は、父親に対して認知の請求ができるが、父親であるはずの男性の妻から慰謝料請求がなされる可能性があれば、認知請求を事実上思いとどまらせてしまうことになる。
といった弊害があると指摘している。このような指摘については、なるほどと思う部分があり、考えさせられる。
一方で、このような請求が、婚姻関係の維持に寄与してきた面は大きいと思われるが、その実体は婚姻の破綻による経済的困窮にあると考えられる。
すなわち、未だに離婚した際に養育費が十分に支払われていないことが多く、また十分な財産分与がなされないまま離婚にいたるケースも多いと聞く。
このような場合に、不貞行為の相手方に対する請求権を認めることで離婚を回避し、あるいは離婚後の困窮を救済するという意義があるとも指摘されている。
逆に言うと、婚姻が破綻しても十分な経済的手当(夫からの十分な財産分与、養育費を確保する方策)がなされるのであれば、不倫相手に対する慰謝料請求を認める必要はないのかも知れない。
諸外国においても、離婚の当事者における権利関係の精算がきちんとなされることを前提に、不倫の相手方に対する慰謝料請求を認めない(あるいは認めても金額は名目的な低額)という法制度が建て付けられているようである。
わが国においては、そう言った諸外国の法制度上の在り方に影響を受けつつも、現在の状況を見る限り、かかる請求を判例上否定する動きは見られないようである。しかし、徐々にその額は低額化の方向にシフトしているようであり、今後家族制度の変化と共にこのような請求がどう変化していくのか、興味深いところである。
(参考文献)
・判例批評「婚姻関係がすでに破綻している夫婦の一方と肉体関係を持った第三者の他方配偶者に対する不法行為責任の有無」(水野紀子・民商法雑誌116巻6号94頁)
・「不倫の相手方に対する慰謝料」(水野紀子・判例タイムズ1100号64頁)
・「夫と通じた者に対する斉氏の慰謝料請求権」(澤井裕・家族法判例百選第3版)
・「不貞行為と慰謝料-相手方に対する請求を中心に-」(黒田樹里・国士舘法研論集第6号)
(追伸)
・・・弁護士としての本音で言うと、このような慰謝料請求は事実がはっきりしている限り比較的イージーな案件といえる。これが認められなくなることは、商売の観点からはやや複雑な気持ちであるが。