ホントに損害賠償義務はあるのか?
東スポの記事にいちいち反応するのもどうかと思うが(笑)、ちと気になったので。
偽ベートーベン・佐村河内氏に降りかかる空前の゛賠償地獄″
http://www.tokyo-sports.co.jp/entame/entertainment/232749/
この記事によると、コンサートを企画した会社やレコード会社が当然のように損害賠償請求ができるかのような印象を持つだろう。
しかし本当に、これらの会社が佐村河内氏に損害賠償請求できるのだろうか。
法律上は、それが可能かどうかは実は微妙である。
まず、仮にゴーストライターが曲を作ったにしても、その著作権の帰属を佐村河内氏との間で取り決めていたのであれば、著作権者は佐村河内氏と言うことになる。
会見内容などからすれば、どうもその様であり、この点は動かないだろう。
そうすると、企画会社が佐村河内氏から許諾を得た上でコンサートを企画していたことになるのだから、正当な権利者から許諾を得ていたことになる以上、これを中止することは企画会社の一方的な都合によるのではないだろうか。
また、コンサートの実演は佐村河内氏がすることになっていたのであれば、彼が出演しないという場合は、彼の契約違反と言うことになろうが、彼が自ら出演辞退しておらず、中止を決めたのが企画会社の判断ならば、これまた彼に契約違反はないはずである。
もっとも、コンサートにあたって、「真実の作曲者である義務」というような、何らかの付随義務が佐村河内氏にあると考えるのであれば、その付随義務違反という構成も考えられなくもないが、少なくとも、彼の「ゴーストライターに曲を作らせた」という点は、犯罪を構成するわけではないし、「真実の作曲者である」かどうかは、人的属性以上の意味はないだろう。
したがって、「実はその著作者(著作権者ではない)ではなかった」というのが付随義務違反と構成するのは無理があると思われる。
結局、企画会社は不法行為も契約違反も問うことは困難であって、損害賠償請求は難しいと解される。
レコード会社にいたっては、正当な著作権者からレコード(古い表現だがとりあえずCD等をこういう)を出す権利を取得している以上、これを販売することになんの問題もない(だいたい、購入者からのクレームに応じて払い戻すことはない、というのは販売が正当だからである)。
そうすると、販売を中止するのもレコード会社の勝手な判断に過ぎない。
したがって、レコード会社が損害賠償請求をすることも無理ではないか。
以上のように考えると、佐村河内氏が「世間を騒がせた」責任を負うとしても、損害賠償の視点から法的義務を負う可能性は少ないと思うのであるが、いかがだろうか。