@BUBUKA(アットブブカ)事件(パブリシティ権の判例3)
本件は、なかなか要約するのが難しい(苦笑)。
芸能人の写真等を雑誌に掲載したことが芸能人のパブリシティ権の侵害に当たらない、とされた事例である。
パブリシティ権の内容についてかなり限定的な判断がなされているとともに、その主体についても限定的に解しており、興味深い判決である。
1 本件は、芸能人の写真等を無断で掲載した雑誌(@BUBUKA)を発行した雑誌社Y(及びその取締役及び編集人らも含む)に対し、掲載
された芸能人(複数名いるがまとめてX1と称する)及びその所属する芸能プロダクション(これまた複数だがまとめてX2と称する)が
パブリシティ権侵害を理由に損害賠償を求めたものである。
2 本判決は、一般論としてパブリシティ権を認めることに消極的である。
その理由を、私なりに要約すると以下のようである。
すなわち・・・
まず、本判決は、
「著名人は自由な情報が行き交う社会の中で有名になっていったのであって、著名人に関する情報の流通が著名人のコントロール下に
おかれ、その意向に沿わない情報が自由に流通しなくなると、著名人が有名になった基盤を否定することになる。」
という認識に立つ。
要するに、有名になるにあたっては、情報が流れるのに任せていたのに、有名になってしまったらその流れをコントロールできるとするのは
おかしいだろ!という理屈である。
そして、世の中には、
「著名人との良好な関係を保ちたいがために対価を支払ってでもそこから情報を得ようとする者が形成する市場」
もあれば、
「著名人との円滑な関係を保つことなど考えずにその許可も得ずに有名人に関する情報を取得するという者が形成する市場」
もあるのであって、後者のみを違法とする法律や慣習は、わが国においては存在しないと断ずる。
その上で、損害賠償請求や差止請求を認めるには、「情報発信行為が名誉毀損、侮辱、不当なプライバシー侵害に該当する場合」
「著名人のキャラクターを(勝手に)商品化したり広告に用いるなど著名人のいわゆる人格権を侵害する場合」などの付加的要件が必要だと
する。
3 以上の前提のもとでは、芸能人らの肖像が掲載されている記事は本件雑誌の1/4ないし1/3程度に過ぎない本件では、
X1に対するパブリシティ権の侵害と評価できるほどの無断使用は認められないとして、X1の請求を棄却した。(※)
※ 断っておくが、あくまでも本判決は「パブリシティ権の侵害」について否定しただけであって、Yの行為がXらの「別の権利」を侵害して
いないといっているわけではない。
現に、本判決ではX1の一部の者については、慰謝料請求を認めている(名誉権かプライバシー権の侵害に当たるとしたと思われる。)
4 さらに、パブリシティ権の帰属主体ではない芸能プロダクションが、当事者として訴訟を担当することを認める合理的必要性は認められない
として、X2による訴訟提起を却下した。
5 パブリシティ権が著名人の顧客誘引力を背景に認められるものだとしても、本件のような雑誌記事への写真掲載が直ちにパブリシティ権の
侵害となるかは問題である。
この点多くの裁判例は、「もっぱら当該著名人の顧客誘引力の利用を目的とする」場合かどうかといった判断基準(「もっぱら基準」と言って
おく)を用いるが、本判決はそれよりパブリシティ権の侵害を認める範囲を限定していると考えられる。
もっとも本件の事案で「もっぱら基準」によってもパブリシティ権侵害が認められるかどうかは評価の分かれるところであると思われる。
その意味では、本件の結論はともかく事案的にはもっと分析されてもよいのではないだろうか。
【事件名】
@BUBUKA(アットブブカ)事件
【裁判所・判決日】
東京地裁H17.8.31
【出 典】
判タ1208-247
【結 果】
請求棄却
【被侵害客体】
タレントの写真
【侵害態様】
雑誌への掲載
【備考・その他】
1 パブリシティ権の認められる場合をかなり限定。
2 芸能プロダクションへのパブリシティ権に基づく訴訟担当を否定。