長嶋一茂ポスター肖像無断使用事件(パブリシティ権の判例2)
表題は、一般的にこの事件がどう呼ばれているのか知らないが、事件の内容に鑑み私が勝手に付けた(笑)。
もし本件がより適当な事件名で呼称されているのなら教えて欲しい。
1 本件は、長嶋一茂(A)が、Yに対して販促用ポスターに使用することを許可した肖像・氏名を,Yが無権限で、当該肖像を用いた雑誌広告
の掲載をZに許諾したとして、Aのマネジメント会社であるXが、Yに対してパブリシティ権の侵害を理由とする損害賠償請求をした事案で
ある(少しややこしいのは、あくまで雑誌広告はZの商品のためのものであって、YはZに対して雑誌広告のために当該肖像の使用を
容認したというものである。)。
2 本件の主たる争点は、Aのパブリシティ権の存在を前提として、AがYに対してその肖像利用の許可した範囲である。
この点、裁判所は、AはYの代表者Bにその肖像の使用を許可したことはあるが、あくまでYの商品の販促用ポスターへの使用のためであり、
YのZへの許諾行為は権限もなくなされた行為であって、Aのパブリシティ権を侵害するとした。
その上で、Aがその肖像利用を雑誌広告等に利用した場合の許諾料相当額を1000万円として、その支払いをYに命じた。
3 以上のように、パブリシティ権がXに帰属している(X)はパブリシティ権をAから譲り受けたと主張しており、Yはこの点を争った形跡はない)
ことを前提にすれば、本件はもっぱら許諾の範囲の問題のみであって、特に目新しいことはない。
しかし、本来パブリシティ権が人格権に由来するのだとしたら、Aのパブリシティ権がXに対し譲渡可能かどうかも問題となったはずである。
特にピンクレディ事件の最高裁判決(パブリシティ権が人格権であることを明言する)が出た現在としては、パブリシティ権がタレント本人
ではなく、その所属するプロダクションが行使できるのかどうかは、疑問の残るところである。
4 なお、本件では、XがYに対して訴訟提起したことを記者会見により発表した点において、事実関係(要約すると、Aの肖像を雑誌広告に
用いたのがYではなくZであったこと)に誤りがあったとして、名誉毀損を理由にYがXに対して損害賠償の反訴を提起したが、裁判所は、
Xが訴訟提起に至った理由を説明するもの自体としては不相当なものとはいえない、として、反訴を棄却した。
【事件名】 長嶋一茂ポスター肖像無断使用事件
【裁判所】 東京地裁
【判決日】 H17.3.31
【出 典】 判タ1189-267
【結 果】 一部認容
【被侵害客体】 長嶋一茂が許可したポスター用写真
【侵害態様】 上記写真の雑誌広告への掲載
【その他】 原告は長嶋一茂のマネジメント会社
(肖像の管理をしている)