マーク・レスター事件(パブリシティ権の判例1)
今回は、パブリシティ権の鏑矢たるマーク・レスター事件を紹介してみる。
1 本件は、パブリシティ権(その名称は用いられていないものの)について、最初に問題になったとされる事件である。
2 事案の概要
有名な英国の子役俳優X(マーク・レスター)の出演した映画の一シーン(Xのクローズアップシーン)をXに無断でY1(ロッテ)のテレビコマーシャルに使用されたとして、Xが、Y1およびY2(コマーシャルを企画、推進した会社)に対し、謝罪広告と損害賠償請求をしたものである。
3 Xは、その主張の根拠として、「氏名および肖像の無断使用による不法行為」により財産的損害および精神的損害を被ったとする。
4 これに対し、裁判所は、
(1)まず一般論として、
① 俳優の場合、肖像権の侵害により精神的苦痛を被ったとして損害賠償を求めうるのは、俳優としての評価や名声を毀損するおそれがあるなどの特段の事情がある場合に限定される。
② 一方、俳優等の氏名および肖像は、①に述べた人格的利益とは別の独立した経済的利益を有するのであって、その権限なき使用によって精神的苦痛を被らない場合でも、経済的利益の侵害による救済を受けられる。
旨を提示した。
(2)その上で、本件コマーシャルへの無断使用について、Xの経済的利益の侵害を認めるとともに、本件における事情のもとではXの俳優としての評価、名声を既存するおそれがあるとして、その精神的苦痛についての慰謝料請求も認めた。
5 なお、Xの請求のうち、Y1に対してはY2への指示関係は認められず、また謝罪広告は本件事案においては不必要であるとして、結局、コマーシャルを企画・推進したY2に対する損害賠償請求のみ認められたものである。
6 この裁判例が注目されるのは、著名人の肖像等について、その無断使用が精神的苦痛のみならず経済的利益をも侵害するとして、不法行為の成立を認めた点にある。
ここに、パブリシティ権の概念が肖像権とは別に検討されなければならなくなったともいいうる。その後、著名人の肖像等の無断使用事例において、当該著名人がその経済的利益の侵害を理由に損害賠償や行為の差し止めを裁判所に請求する事例がいくつも見受けられるようになるが、いかなる場合にこれが認められるかといった問題やその他の問題についても顕在化することとなり、これをも含めて検討が必要とされていったのである。
【事件名】
マーク・レスター事件
【裁判所・判決日】
東京地裁S51.6.29
【出 典】
判時817-23
【結 果】
損害賠償一部認容
謝罪広告は認めず。
【被侵害客体】
映画の位置シーンより抜きだした画像
【侵害態様】
テレビコマーシャルへの挿入利用
【備考・その他】
パブリシティ侵害について財産的損害とともに慰謝料も認める。