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「女子高生死亡のガールズバー元経営者に有罪」との見出しに関し

最初ふんふんと思って読みながしていたのだが、きわめて分かりづらいのでコメントしてみたい。

女子高生死亡のガールズバー元経営者に有罪 大阪地裁

まず、この見出しでは女子高生が死亡したことで有罪になったのかと思えるが、まったくそうではない。
このガールズバー元経営者が、今回有罪になったのは、労働基準法違反と食品衛生法違反である。
労働基準法では、原則として
『18歳未満の未成年者を午後10時以降働かせてはならない。』

この場合の罰則は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金である。

本件の元経営者は、女子高生を深夜(午後10時以降)まで働かせた点が問題とされたのである。
また、この記事からは、なぜ食品衛生法違反が問題となったのかは、最後まで読まないと分からない。
(末尾に「大阪市の許可を受けないで飲食店を経営した。」と書いてあったので、一応理解できるのだが・・・。)

食品衛生法では、

飲食店営業を行おうとする者は都道府県知事の許可を得なければならないとされているところ、
元経営者はその許可申請をしていなかったのであろう。

こういった許可申請をせずに営業している飲食店も結構あるのかもしれず、実際アルバイト店員が死亡しなければ問題とされなかった
のかも知れないが、この裁判においては女子高生の死亡はおろか、「女子高生を働かせていたかどうか」ともなんら関係はない。

そう言う意味では、この記事の見出しはきわめて説明不足と言わざるを得ないし、本文にも「・・・泥酔したアルバイト店員の女子高生=当時
(18)=が死亡した事件に絡み、」とあるが、おそらく発覚の経緯が女子高生の一人がアル中で死亡したことからであって、今回の裁判とは
直接なんの関係もない。

あと、もう一つ一般人はスルーしてしまうのだが、古い法律を知っている者としては、一つ疑問がある。
それは、保護責任者遺棄致死罪の取扱である。

すなわち、同時に発覚したと思われる複数の罪状については、従来なら「併合罪」と言って、同じ裁判所で同時に審理する(通常その方が
迅速に裁判を済ませることができるから)のだが、この裁判ではそうならなかった点である。
実はこの点、裁判員制度をきちんと理解していたら生じなかった疑問なのかも知れず、不勉強で恥ずかしいのだが、ちょっと調べてみたこ
とからすれば、おそらくこういうことだろう。

すなわち、急性アル中になったアルバイト店員を介抱もせずに放置し、その結果アルバイト店員が死亡した点が、保護責任者遺棄致死罪に
問われたのであるが、

保護責任者遺棄「致死」罪は、裁判員裁判の対象となる。
(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(裁判員法)2条2項2号・・・本件で基本的な罪となる保護責任者遺棄罪は故意犯だから。)
これに対し、労働基準法違反と食品衛生法違反は、裁判員裁判の対象とはならない。

この点について、裁判員法では、

「裁判所は、対象事件以外の事件であって、その弁論を対象事件の弁論と併合することが適当と認められるものについては、決定で、
これを第二条第一項の合議体で取り扱うことができる。(第4条)」
(要するに、裁判所が、その方が適当だと考えるときは裁判員裁判に組み込んでもいいよ!と言っている。)

とされていることからすれば、
原則として、裁判員裁判の対象となる事件とそうでない事件は別個に審理することとし、裁判を併合しないという取扱になるようだ。
裁判員制度の考え方からすれば、確かにこれは当たり前であって、そもそも事件のないようも罪名も違うものを素人が整理して審理する
のは難しいからである。

以上のように考えると、この記事の内容は、

本件の元経営者が、今回裁判で有罪とされたのだが、
その罪状は、

 ①女子高生を深夜に働かせていたこと
 ②府知事の許可を得ずに飲食店営業をしていたこと

というもので、

①については労働基準法違反、②については食品衛生法違反として、懲役刑(執行猶予月)を受けたと言うことであり、
ついでながら、実は、この経営者は、アルバイト店員として雇っていた女子高生が急性アルコール中毒になってしまったにも拘わらず、
介抱をせずに放置した結果、その女子高生を死なせてしまったという事件の犯人として、
別の裁判にかかっており、この点については裁判員裁判が開かれる予定である、と言うことである。

したがって、当然のことながら、女子高生が死亡したことについては、本件の元経営者は現時点では有罪でもなんでもないことになる。

・・・新聞記事というものは、注意して読まないときちんと理解できないことがある、と言う例の一つかも知れない。

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